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『あるキング』伊坂幸太郎

2012.09.30(22:49) 747



伊坂作品は、いつも先が気になって、短期間(短時間)で読んでしまう事が多いのだが、この作品には、なかなかのめり込めなかった。
自分があまり野球に興味を抱いていないからかも知れない。

それでも終盤の展開には、そう来たかって思わせ、一気に目が覚めた。

球団の苦しい裏側が垣間見れるようでもあり、切なさが残る作品だった。
 
 
 



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☆ポルノグラフィティ・武道館LIVE☆

2012.09.29(00:03) 745





 
 


 ポルノグラフィティ
「12th ライヴサーキット“PANORAMA×42”」
@日本武道館 9/26・27・28

未月は27日に参戦。
2階南H列
ほぼ正面。通路の後ろなので、手摺りがあるし、すぐ目の前には人がいないから、見やすい位置ではありましたが、やはり距離的には遠い…

このところ、自分が観るステージは、近くはないけど、正面になる席の確率が高めになってる気がするのだが……。



ツアー中なのでネタバレはしませんが、さわりのMCと、個人的に感じた事のみ書きたいと思います。
それさえも覗きたくない方は、ご遠慮くださいませ














まず、登場の演出がいつものLIVEと違って、あれ?ってなった


“PANORAMA Version” で演奏された楽曲は、1曲1曲が凄く丁寧で、とっても素敵なアレンジでした。


ド平日に良くぞこんなに集まってくれたと、しきりに感謝するお二人。

(いやいや、スケジュール組んだの、そちらさんですがな

3daysの真ん中は大事だと言う昭仁さんの言葉に、会場はものすごい歓声で盛り上がり、昭仁さんも、すごいわ、君ら心配いらんわ! とか言ってたような(曖昧)


その後も、武道館ならではのエピソード、テレホンショッキングの時の話、会場との掛け合い等々。


そして、ポルノ独自のプロジェクトであるポルノ丸について。

やっと宮城県山元町に漁船を送る事が出来る。との嬉しい報告がありました。

公募していた船名の発表もあり、ポルノファンなら直ぐに反応しちゃうロゴ

ポルノ丸と言うのはプロジェクト名で、「そのまま船名にして海に浮かんどったら、中で何をする船なんじゃって、漁師さん達もびっくりするからね」的な…(笑)

自分もチャリティーグッズの購入で加担はしたけど、こうして一隻の船と言う“カタチ”で残す事が出来て、ひとりの小さな力でも、協力出来て良かったなって思います。


LIVEを重ねる毎に、男子が増えてる気がするのよね。野郎LIVEが十分出来ちゃうと思うよ


晴一さんが、「ライブハウス・武道館へようこそ!」って言ってたけど、ホントに同感!

初めて武道館に足を踏み入れた数十年前は、なんて広いんだろうって思ったし、座席がすべて埋まるのだろうかとか思った記憶があるけど、その時ほどの広さは感じなくなってました。それほどの一体感が、そこにはあったのです(*^o^*)

ステージの演出も、JAZZのライブハウスっぽくて、シンプルなんだけど、光線がきれいでとっても素敵な空間~

そんな素敵なステージでも、、やっぱり、、昭仁さん、、歌詞が、、飛んだ・・・・Σ(゜∀゜;)

歌い終わってからの悔しそうな表情が、なんだかとってもキュートな昭仁さんでした(///∇///)

初めて生で聞く楽曲もあり、これは武道館で絶対歌って欲しいと思っていたので、ファンの声が届いているんだなーって、実感。裏切らないポルノさん


サポートメンバーとの関係の距離感もいい感じで、今までのサポメンさんを含めて、ポルノチームのLIVEだな~って、改めて感じました


今回のツアーにキーワードつけるなら

挑戦・光・アレンジ・クラシック・ライブハウス・一体感・泣ける・チーム・それでもやっぱり歌詞は飛ぶ……。



いい意味で挑戦的なLIVEだと感じました



次は来週早々(近っ!)
大宮でございますぅ~\(^ー^)/




台風来ないで
 
 
 
 
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『想いが届く時』【14】

2012.09.28(23:38) 731

『想いが届く時』【14】-妻-


 ナオは、雅樹と矢城に気持ちを伝えようと思いながらも、なかなか言い出せずに数日が経過していた。その日の夕方、飯野が帰社すると、作業中の従業員の三田が声をかける。

「飯野さん、お疲れのところすみません。今日、矢城が私用で早仕舞いしてるんで、ちょっとお手伝い願えますか? もう少しで片付くんですが……」

「おう。今行く」

 そうか、そういえば矢城くん、明日妹さんの結婚式だとか言ってたな。雅樹はもう少しかかりそうだし、帰ろうかな~。お母さん今日は夜勤だっけ? などとぼーと考えながら、ダラダラと帰り支度をしていた時だった。作業所から叫び声が聞こえて来た。

《飯野さん! しっかりしてください! 飯野さん!》

 飯野さん?

 ナオが慌てて作業所に行くと、飯野が床に倒れ込んでいた。

「飯野さん! 飯野さん!」返事がない。

「救急車! ナオ! 救急車を呼べ!」雅樹が叫ぶ。

「は、はい!」

 救急車は数分で来た。

「雅樹、悪いが、飯野くんの荷物を持って一緒に乗ってくれ。私は早苗さんに連絡をとる。残った者は、心配だろうが、作業だけは終わらせてくれ。私も手伝うから。雅樹、病院から様子を連絡してくれないか?」

 社長が皆に指示する。

「わかりました!」

「あ、あたしも病院に行きます! 行かせてください!」

「ああ、頼むよ」

 雅樹とナオが救急車に乗り込む。

「飯野さん、しっかりして!」

 ナオは不安で半泣き状態だった。



 ――病院――

 検査が終わり、点滴を打たれた状態で病室に運ばれて来た飯野。

「ご家族の方は?」医師が尋ねる。

「あ、間もなく見えるかと思います。俺達は会社の者なんですが、飯野さんの容態をお聞きしてもいいですか?」

「ご安心ください。貧血を起こされたようです。だいぶ疲労がたまっている様子ですから、2・3日ゆっくり休ませてあげてください。今は薬でぐっすり眠っていますから、明日になれば、だいぶ回復するはずですよ。ご家族の方が見えたら、私から話しておきますからね。お大事にしてください」

「ありがとうございました」二人は頭を下げた。

「はぁ……。良かった……。何でもなくて……」ナオは病室の椅子に座り込む。

「俺、社長に連絡してくるから」

「うん」

 雅樹が病室を出て行った。

「飯野さん、びっくりさせないでよね……。どうなる事かと思ったよ……。やっぱり一人暮らしは大変なの? 神経が疲れちゃったのかな……。あたしに何か出来る事ないの? たまには甘えたっていいのに……」ナオは眠っている飯野に向かって独り言をつぶやきながら、そっと手を握った。

 ビクッ!

 飯野の手が、一瞬握り返したような気がした。そこに雅樹が戻って来て、慌てて手を引くナオ。

「社長もほっとしてたよ。でも、ほんとにびっくりしたよな。ガタガタって音がしたから振り向いたら、飯野さんが倒れてるんだもんなー。何の冗談かと思ったよ」

「ほんとよね、どんだけ疲れてたのよ」

 その時、ドアが開く音がした。

 スーッ、ガタンッ。

 女性がひとりで入って来た。ノックもせずに。

「あなた……」

 奥さんだ。二人がベッドから離れる。

「倒れたって言うから、びっくりしたじゃない。もう、心配させないでよ……」

 彼女は飯野の顔を撫でると、安堵の表情を見せ、二人の方へ顔を向けた。

「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした……」

「いえ、いえ。迷惑だなんて、全然ですよ。大事に至らなくて良かったです。俺達も安心しました。じゃあ、俺達はこれで失礼します」

「ありがとうございました」

 二人が病室を出て歩き始めると、再び飯野の妻が追って来た。

「あ、あの……」

「はい?」

「雅樹さんと、えっと……」ナオの顔を見る飯野の妻。

「あっ、……美坂です」

「みさか、さんね……。お二人にちょっとお聞きしたいのですが、仕事はそんなに大変だったのでしょうか?」

 二人は顔を見合わせる。

「そうですね〜。まぁ、仕事ですから大変には違いないですけど……。飯野さんは今までずっと忙しかったですし、それなりにペース配分出来る人でしたから、特に忙しくなったわけでもないとは思うんですけどね。ただ、最近ちょっと痩せたかな、とは思ってましたけど……」

「そうですか……。やっぱり私のせいですね……」

「えっ? 奥さんのせいだなんて……。何でですか? 何か……あったんですか?」

「雅樹、止めなよ。飯野さんは無事だったんだから、そんな事……」

「いいんです。……。実は私……、暫く家を出ていて、主人とは顔を合わせてなかったものですから……」

「それはつまり……、別居……中……?」

 ナオは逃げ出したかった。

「まぁ……、そうですね……。別居って言っても、実家に帰っていただけなんですけど。私があの人を追い詰めてしまったのかも知れません……。先生にも言われてしまいました。軽い栄養失調状態ですから、スタミナ付けてあげてください、って。今時、いくら軽いって言っても栄養失調だなんて、有り得ませんよね? 食事も喉を通らない程だったんでしょう……。私もいい加減、意地を張るのは止めようと思います。また皆さんにご迷惑はかけられませんもの。あ……、栄養失調の事は秘密にしておいてくださいね。お恥ずかしい事ですから……。本当に……ご心配をお掛けしました。これからも主人の事、よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」二人は同時に頭を下げた。飯野の妻は病室へ戻って行った。

「驚いたな。別居中だったなんてさ。奥さんにバレちゃったってわけか……。飯野さん、正直だからな。はぁ〜、今日はなんだか心臓が疲れたな〜。予想外な事が続いてさ」

「…………」ナオは動けないまま。

「ナオ? 大丈夫か? ちょっと座るか?」雅樹が待合室の椅子に座らせる。

「そんなにショックだったのか? 別居してた事が」

 小さく首を横に振るナオ。

「あ、もしかして知ってたんか?」

 コ、ク、リ。

「そっか……。ナオは飯野さんの事は何でも知ってるんだな……」

「逆だよ……」

「逆?」

「あたし……、飯野さんの事、なんにも知らないんだ。仕事の顔と酔った顔と……優しい手の温もりだけ……。プライベートはなんにも知らない……」

「知る必要あんのか?」

「……ふっ……。そうだね……。あたしね、初めてだったんだ~。奥さんと位置付けられた人と直接話たのって」

「位置付けられた人?」

「今までも妻帯者の人と付き合った事あるけど、奥さんの存在は言葉だけだった……。好きになった人の奥さんに会うって、こんな気分になるんだなぁって、今更気づかされたよ……」

「こんな気分て?」

「なんて言ったらいいんだろ? ……敗北感? 別に勝負してたわけじゃないけど、これ以上深入り出来ないってゆうか、強制終了させられた感じ。……。だけど不思議と嫉妬してない自分に驚いてる。なんで……かな?」

「踏ん切れたんじゃねーか?」

「う~ん……。飯野さんの奥さんがいい人だからかな? 飯野さんを見る優しそうな眼差し……。大人しそうだけどしっかりしてるようにも見えるし……。あの人なら安心して飯野さんを任せられるって思えたのかも……」

「おまえ何様のつもりだよ―。奥さんなんだから、任すも何もねーだろうよ」

「ふ……。だよね。なんかね、飯野さんが奥さんの事、2度は裏切れないって言った意味が、なんとなくわかったような気がするんだ……」

「あきらめ……られそうか?」

「まだわかんない。でも、なんだか心の中がスッキリして行くのがわかる……。今までには感じた事ない気持ちになってる……。それに、あたしの気持ちも飯野さんに負担をかけてしまったのかも知れないし……。ホントはね……。雅樹と矢城くんに伝えたいと思ってた事があったんだ。……でも、言わない事にした。自分の心に留めて置こうと思う……」

「なんだよそれ。気になるじゃんか!」

「自分の気持ちの事だから……。でも前を向いてるから大丈夫だよ」

 雅樹はナオを見つめると「俺、待ってっからな……」と呟くように言った。

「うん……。あっ! あーーーー!」ナオが急に雅樹に向かって叫んだ。

「な、なんだよ」

「待ってる、で思い出した! 雅樹、あんた、矢城くんに言ったでしょ! あたしと寝たこと!」

「はぁ? 言ってねーよ! 言うわけないだろ!?」

「矢城くんが教えてくれたんだから!」

「矢城が? 俺、いつそんなこと言った…………あっ――――! やべっ! あん時……」

「ったく。信じらんないよ。人として最低ー!」

「いや、あのさ、あん時は俺、焦ってたんだよ。矢城がナオに近づけば、ナオの気持ちが矢城に向いて行くんじゃないかって。だから、その……、つい、俺の方がナオを知ってるって言っちまったんだ。悪かった……。俺、ナオが好き過ぎて、自分のことしか考えてなかったんだ。どうかしてたんだよ。ホントに悪かった! 謝る! ごめん!」

「もう〜。矢城くんにだけだから、許してあげなくなくもないけど?」

「もっと大人になるから、勘弁してくれよ……」

「ぷっ、雅樹が口が軽いのは、親しい仲間内だけってわかってるから。もう、いいよ」

「軽くねーよ! ……まぁいいや。ナオにわかってもらえてればそれでいい。俺、マジだから。ナオの事。気長に待つからさ。もっと余裕のある人間になるよう努力すっから!」

「ありがとう。じゃあ、気長に待っててよ。気づいたら、じいさん、ばあさんになってたりして」

「待たせ過ぎだろ!」ふたりは笑いながら病院を後にした。




 『想いが届く時』【15】へ続く
 



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『想いが届く時』【13】

2012.09.26(23:15) 730

『想いが届く時』【13】-再熱-



 ナオは飯野のマンションの部屋にいた。

「飯野さん? ひとり……なんですか?」

「ああ……。また出て行かれちゃった」

「えっ!? ……。今度は何したんですか?」

「やだなぁ~。何もしてないよ。1度は戻って暫く一緒に居たんだけど、あの人(鏡子)を抱いた身体で、私に触れられると思うとゾッとする。って言われちゃってね。このままだと、自分のイライラが子供にあたってしまいそうで怖いって言って……。まぁ、そのまま別居状態ってわけ」

「そんな……。あれほど覚悟を決めたのに……」

「僕が甘かったんだよ。家内はおとなしくて優しい人だったからね。彼女ならすぐに許してくれるだろうって思ってしまってたんだ……。僕を信じきってた彼女にとっては、ダメージが大き過ぎたんだと思うよ……。さすがに彼女の両親も、ただの夫婦喧嘩じゃない事に気付くよね。暫くは息子を実家から通わせるから、って言われたよ……」

「飯野さん……。大丈夫? …………じゃないよね? 大変そう……だね……」

「仕方ないよ。悪いのは全部僕なんだし。あ! 僕の事よりナオちゃんだよ。せっかく僕を頼って来てくれたのに、自分の事話しちゃった。ごめん、ごめん。ちゃんと聞くよ。どうしたの?」

 ナオは飯野の深刻な状態を聞いて、話すのをためらってしまった。

「でも……飯野さんの事情知ったら、あたしの悩みなんてすごく小さい気がして……。それに、飯野さんは奥さんと仲良く暮らしているとばかり思ってたから、ちょっと動揺しちゃってます……」

「そうだよね。僕もだよ」と苦笑いしながら「でも、今は距離を置くしかないと思ってるんだ。それより、ナオちゃんの方が心配だよ。悩みに大きさなんて関係ないし、本人にとっては悩みなんだから、僕に話すだけでも、気が楽になるんじゃない? 僕は今までもナオちゃんにそうやって助けられて来てるからね。僕で役に立つ事があれば力になるから」

 ナオは、飯野とふたりきりで居ることに、心が熱くなるのを感じた。


 飯野さんへの気持ちは断ち切ろうとしたんじゃないの? いけない……。彼の顔見たら、気持ちが揺らいでしまう。しかもふたりきりだよ。やばい、やばいよ。どうしよう。このままじゃ、冷静さを失っちゃう……。


「ナオちゃん? 大丈夫?」

 
 ダイジョウブジャナイ!!


「ゆっくりでいいから話してみて」飯野がナオの顔をのぞく。

 
 ドッキン!


 ナオは動揺しながら話した。二人の男性から好意を持たれていて、二人とも愛情には発展しない気がする事を告げた。もちろん名前は伏せて。

「なるほど~、贅沢な悩みだねぇ」と飯野が笑った。「彼らとは、いろいろ話しとかした上で、迷ってるんだよね? もちろんナオちゃんとふたりきりで。それなりの時間は経過してるってことでいいのかな?」

 ナオが頷く。

「そうか……。ん~、男ってのはね、気持ちが伴わなくても、抱きたいと思うと抱けちゃうような、動物性本能を持った生き物なんだよ。それを行動に移すか移さないか、人に寄って違うだけ。でも女性は、その人に心から抱かれたいかどうか、なんじゃないのかな?」

「心から……抱かれ……たい……か、どうか……?」

「あ、いや、あくまでも、判断基準のひとつとしてだよ! 気持ちが伴った上での話。求められたから抱かれるんじゃなくて、自分からもいけちゃうような」


 抱かれたい? そう思えるのは、まさに今、目の前にいる男性だよ。


「あたし、二人に抱かれても、イヤじゃないんです……。身体だけの事を言えば……。でも、自分から求めたいとは思わない」

 その言葉を聞いた飯野は、何故かその二人の男に嫉妬めいたものを感じてしまう。ナオの身体を自分の他にも奪ったやつがいるんだと。そんな事は当たり前じゃないか。しかし、心が落ち着かない。ナオの身体は魅力的だった。一度関係を結んでしまえば、暫く離れないであろう。飯野だって例外ではなかった。飯野の中で何かが起き始めていた。
 飯野が暫くナオを見つめたまま、沈黙しているのを見て、ハッとした。


 しまった! つい抱かれたなんて言ってしまった! どうしよう……。飯野さん、絶対あたしを軽蔑してる……。やだ! 嫌われたくない!


「あ……、あの! 抱かれったって言うのは、その……、ちょっと抱きしめられたってゆうか、か、身体が……その……負けたって言うか……あ、いや、えっと……」

「ハハハッ。ナオちゃん? 今更何言ってるの? 隠さなくたっていいよ。そんなあわてちゃって、ナオちゃんはまだまだかわいいな~」

「……飯野さん? あたしを軽い女とは思わない?」

「何で? 思うわけないじゃない。何年ナオちゃんを見てきてると思ってるの? きっと二人とも、ナオちゃんを好きな気持ちが止められなかったんだろう? 違う? 僕だって……、あの時、ナオちゃんの身体を目の前にして、欲望を止める事が出来なかったんだから……」

 ナオは心臓がドキドキしてくるのを感じた。


 ダメだ……。熱が戻った……。


「飯野さん……。今はどうですか? ナオは目の前にいますよ?」

「だめだよ。僕は対象外でしょ」

「どうしてですか? 奥さんがいるから? でも好きになっちゃったんだもん。どうしようもないよ! あたしが心から抱かれたいと思ってるのは、貴方だけなんです!」

「ナオちゃん! それは言ったらだめだよ! ナオちゃんにはもっと……」

「もっと、何ですか!? 相応しいひとがいるとでも言うんですか? あたしは……。あたしは……、飯野さんじゃなきゃだめなんです!」

「ナオちゃん! 僕じゃだめだ! あきらめてくれないと困るよ。僕だって、あの時からナオちゃんに会いたい気持ちをずっと堪えて、家族に目を向けてきたんだから」

「あきらめようと思ったよ……。何度も。だから二人と向き合おうと思った。でも、いつも心に飯野さんがいるんだよ。出来ないの……。飯野さんが鏡子さんをあきらめられなかったように、あたしも、貴方をあきらめきれない!」

「ナオ……ちゃん……」

 飯野はナオの気持ちが痛いほど良くわかる。ナオを抱きしめて、欲望のまま、ナオを自分のものにしたかった。だが、受け入れてはいけない。また妻を裏切るのか? しかし、目の前にいる女性を押し倒してしまいたい衝動に駆られる……。飯野は必死で自分の気持ちと闘っていた。

「ナオちゃん。僕も君を抱きたい。今、無性にナオちゃんを欲しいと思ってる。二人の男達に抱かれたと思うと……、それだけで……、気が変になりそうだよ……」

「だったら、抱いて! あたしの中から二人を追い出して!」

「ああ……。ナオ……。君が欲しい……」

 飯野はナオを強く抱きしめ、手で頭を撫でると、髪に頬を何度も擦り付けた。ナオは激しく飯野を求める。

「でも……、それはしちゃいけないんだ。これ以上、深入りしちゃいけない。君を傷つけてしまうことになる……」飯野は必死で耐えていた。

「あたしは傷つかないよ。自分の気持ちにウソはついてないもん。ナオは飯野さんが好き!! 飯野さんだって、ナオが欲しいでしょ?」

 ナオは飯野が上司である事など忘れ、子供のように喋り始めていた。飯野もナオが愛おしくてたまらない。呼び捨てにしている事など忘れている。

「僕だって……、ナオの事、ずっと気にしてきた。そしていつの間にかナオに惹かれていく自分に気づいたんだ。さっきの告白話を聞いて、年甲斐もなく嫉妬してる……。こんな気持ち……、今まで味わったことがないよ……」

「だったら……」

「ナオ……。聞いて欲しい」飯野はナオを抱きしめたまま続けた。

「僕は今、間違いなくナオを好きになってる。ナオも僕に好意を抱いている。お互いの気持ちは伝わったよね? それだけで十分じゃないか? 君が僕を好きでいてくれるだけで、強い気持ちになれる。今の状態のまま、欲情に負けて君を受け入れてしまったら、ナオの心の中に深く穴を開けてしまうだろう……。ナオには幸せになってもらいたいんだ。わかって欲しい……」

「いや! あたしは飯野さんと一緒に居たいの! 抱いてくれるまで帰らないから!」

「抱けば帰るのか? ナオは僕としたいだけなの?」

「したいよ! 飯野さんだってナオが欲しいって言ったじゃん!」

「ナオ……。人を好きになるって、それだけじゃないだろう? 君は今、僕がひとりでいるから、甘えてるだけでしょ? 僕は、ナオを幸せに出来る条件に当てはまらないんだよ。わかるよね?」

「わがままな事言ってるのはわかってる……。でもこの気持ち、止まんないよ……。飯野さんの中に入りたい……」

「入りたいのは、僕の方だよ!」

 はい。確かに。

「僕も我慢するから、ナオも耐えて欲しい。お願いだから!」

「わからないよ……。なんでお互いに好きなのに愛し合えないの?」

「君は……わかってるはずだ……」

 ナオはこれ以上言っても、飯野を困らせるだけなのはわかっていたが、なかなか引き下がれないでいた。

「飯野さんはナオが好き?」

「ああ、好きだよ」

「もう一度言って!」

「僕は、ナオが、好きだ!」

「愛してる?」

「……その言葉は……簡単に口に出しちゃダメ!」

「いじわるぅ」

「ナオ……。心の中で叫ぶよ。思いっきり」

「……。嬉しい……。その言葉、忘れないよ。ありがとう。…………。わかったよ。飯野さんをこれ以上困らせたら、嫌われちゃうもんね。でも……、ちゃんといい恋愛が出来るまで、ずっと飯野さんを想い続けてもいい? 簡単にはあきらめられないもの……」

「僕だってそうだよ。だけどわかってる? 僕の方が、罪は重いんだぞ」そう言ってナオを見つめる飯野。

「飯野さん? キスして……」

「ナ……オ?」

「お願い。キスだけならいいでしょ?」


 いいわけはない。


 飯野はナオの顔を手で押さえると、唇を重ね、その手を頭の後ろと腰に回し、しっかりと抱きしめながら、長いキスをした。

 ナオは、とろけてしまいそうな身体を必死に堪えて、腕を飯野の背中に回してしがみつき、飯野の唇から身体まで、彼の感触を自分の脳裏に焼き付けるのだった。


 飯野は思った。

『今日ほど独り寝が寂しい夜はないだろう……』と。




『想いが届く時』【14】へ続く



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『想いが届く時』【12】

2012.09.24(22:35) 729

『想いが届く時』【12】-動揺-


 矢城が復帰して、3ヶ月が経ち、矢城もすっかり回復していた。その日は、雅樹から誘いがあり、ナオは居酒屋にいた。

「居酒屋で真面目な話っつうのはどうかと思ったんだけど、俺さ、こういうとこの方が落ち着くんだよな」

「真面目な話?」

「ああ……。まあ、いつも真面目だけどよ!」

「どうだか。でもなんかやだなあ~、あらたまっちゃって。最初から真面目な話とか言われると構えちゃうじゃん?」

「まだプロポーズとかしねーから安心しろよ」

「あら? してくれないの?」

「していいのか?」

「受けるかどうかは別だけど」

「おまえさ、そう言う大事な事軽く言うなよ!」

「雅樹が言い出したんじゃん!」

「あ……。わりい……」

 雅樹は一呼吸するとナオに向かって聞いて来た。

「俺はナオが好きだ! ナオは俺が好きか?」

 ドキッ!! いきなりかよ!!

「ストレート過ぎるよ。好きか嫌いかって聞かれたら……、好きだけど……」

「矢城と俺なら? どっちが好きだ?」

「そんな事……わかんないよ! ふたりとも好きだし……」

「じゃあ、ふたりと付き合うのか?」

「雅樹……。どうしちゃったの? あたしは、まだ付き合うとかそんなん決めてないよ? 自分の気持ちも良くわかんないのに……」

「じゃあ、決めろよ」

「はっ? 何それ。感じ悪~。いつもの雅樹じゃないよ!」

「ああ、俺、どうかしちゃってるんだ。ナオの気持ちが矢城に向かってる気がして、不安なんだよ。事故以来、ナオが矢城を見る目が違って来てるし、こんな不安になった事初めてなんだ。だから、ナオの気持ちが知りたいんだよ。俺じゃダメか?」

 ナオは正直迷っていた。ふたりとも好き。でもそれは友達以上恋人未満の中途半端な感情だった。胸の奥がキュンとなったのは、飯野と一緒にいる時だけだったから。雅樹に抱かれた時は、なんだか夢の中の出来事のようで、自分の感情と合致したものではない気がしていた。

 矢城くんとはどうなんなんだろう? 求められたら受け入れられるの?

 ナオはほんとにわからなかった。暫く黙り込むナオ。

「はあ……。俺って小せえやつだよな……。ナオを見守るぐらいの器の広いやつになんなきゃ、矢城には勝てないよな……。悪かった。一方的過ぎたよ……」

「勝ち負けの問題じゃないでしょう? それに好きって気持ちだけじゃ、どうにもなんないこともあるし……。笑う影には泣く姿もある……。もう少しこのままでいようよ、ね?」

 雅樹はわかったよ、と言うと、テーブルのつまみを平らげた。

「大事な話って、それだけ?」

「それだけって……。俺にとってはナオの気持ちを知る事が何より大事な事なんだ。俺の気持ちはちゃんと伝えたからな。ナオがもう少しこのままがいいなら、そうするから。俺、待つよ」

「ありがとう……」



 数日後の休日。昼まで寝ていたナオの携帯が鳴った。矢城からだった。

『は……い』

『ナオさん! 今からナオさんを向かえに行くから、準備しといてください!』

『はい? なんか約束してたっけ?』

『してないけど、とにかく行くから!』

『――――ちょっ! あたし起きたばっか……』

 電話は一方的に切れた。どうしたって言うの? 矢城は近くまで来ていたのだろうか、15分くらいで来た。

「もう~、早すぎだよ~。女の子が15分で準備出来るわけないでしょ!?」

「ごめん……。どうしても聞きたい事があって、来ちゃった」

「聞きたい事? なら、あたしの部屋上がる? お母さん帰って来るの夜だし」 

「えっ! いいの?」

「いいよ。どうぞ」

 矢城は、ナオの部屋に初めて招かれた事が嬉しくて、小さくガッツポーズをした。
 ナオの部屋は女の子の部屋にしてはかわいくない。『ナオさんはあんなかわいいのに』などとキョロキョロしていると、ナオが麦茶を運んできた。

「見回したって、彼氏の写真とかないよ」と言いながら、おぼんごとテーブルの上においた。

「ほんとにシンプルだね。すっきりしてて気持ちいいくらい。ナオさんがかわいいから、なんだかすごいギャップを感じるよ」

「片付けるのが嫌いだから、散らかさないだけよ」

「ナオさんて、女らしいんだか男らしいんだかわかんないね」

「やだぁ~、バリバリ女の子じゃん!」

 ナオがベッドを背にして座ると、矢城も隣に座った。

「ナオさん……、スッピンもかわいいね」

「やだ……、あんま見ないでよ。矢城くんの来るのが早すぎるから、顔しか洗う時間なかったんだから」

「ごめん。でも、プライベートが見れてなんだか嬉しいよ」矢城の視線が胸元に行くのがわかった。

 ヤバい! ブラ着けてなかった……。

「あ、ねえ、聞きたい事ってなに?」ナオは膝を抱え、胸を腕で隠した。

「うん……。ナオさんは雅樹さんとは付き合ってないって言ったよね?」

「雅樹とは……なんてゆうか……、友達感覚から抜けきれないって感じかなぁ……」

「ナオさんは友達同士でも、体を許す人なの?」

「――――!?」

「俺、やっぱりナオさんをあきらめるなんて出来そうもないんだ。雅樹さんと一緒にいるナオさんを、冷静に見られなくなってきてるんだ」

「ちょっと待って! 友達同士で体を許すってどうゆうこと?」

「雅樹さんに聞いたから……」

「雅樹に……聞いた?」

「ええ。『俺はナオの気持ちを確認しないまま、ナオを抱いたけど、ナオはすげーいい顔してて、俺、ますます惚れちまった』って話すから、なんでそんな事わざわざ俺に話すのか聞き返したら、『おまえにナオを取られる気がした』って……」

 うそでしょ? 雅樹はそんなやつじゃない!

「俺、かなり動揺したよ。ふたりが付き合ってるなら許せたけど、なんか裏切られたような気がして。俺が口出す事じゃないかもしれないけど、ナオさんが雅樹さんの事、どう思ってるのか知りたかったんだ」

「信じらんない……。雅樹がそんな事、他人に言うなんて……。待つって言ってたじゃない……。ひどいよ……」

「俺は……、ナオさんが雅樹さんのこと、ほんとに好きなら身を引いてたよ。遠くから見るだけにしてたかも知れない。でも、そうじゃないみたいだから、まだあきらめたくないんだ! ナオさんと一緒にいたい」

「あたしは……、ふたりとも好きだよ……。でも、好きって感情にはいろいろあって……」ナオが話してる途中で、矢城は強くナオを抱きしめた。

「ナオさん! 俺、ナオさんを守るから! どんな事があっても、必ず! だから、俺のことちゃんと見てよ!」

「矢城くん……」

 ナオは矢城の逞しい腕に抱きしめられ、鼓動が早くなる。

 あたしを守る? そんな言葉、言われたことない。

 その時だった。矢城の唇がナオの唇を押さえる。

「――――――――!?」

「ナオ……。俺を好きになってよ」矢城は人が変わったように、ナオをベッドに押し倒し、覆い被さって来た。

「――――! 矢城くん!?」

「ナオ……。好きだよ……。ナオのすべてを俺にも見せて」矢城は、ナオを呼び捨てにし、ナオの両手を押さえ、キスを繰り返しながら、ナオの肌に触れ始めた。

「や、……やめて……」

 いきなり野生化した矢城。

 ナオは矢城の力に勝てるはずもなく、起きたばかりの無防備な格好が、矢城を興奮させる要因にもなってしまったようだ。

「矢城く……ん……。雅樹と同じ事する……つもり?」ナオはやっと言葉を発した。

「雅樹さんより、気持ちよくしてあげるから」

 矢城の力はかなり強く、鍛えられているのがわかる。ナオは抵抗しても無駄だと思った。

 矢城くんは優しい人よね? ナオを守ってくれる人よね? 今ナオの上に乗ってる人はほんとに矢城くん? ナオは矢城くんのこと好きだからこんな事してるの?

 ナオの混乱した頭の中とは裏腹に、身体はとろけそうに熱かった。ナオはそんな自分が嫌でたまらない。

 あたしは気持ちがなくても感じる女なの? 違う! 全く気持ちがないわけじゃないんだ。いやなら抵抗しまくればいいじゃない? 雅樹も矢城くんもナオが好きって気持ちがあるから、激しくてもどこか優しいんだ。好きなら欲しくなるよね? あたしは……ふたりとも好きになってるの? 

 ナオの感情を無視するかのように、身体は熱り続けた。ナオは、自分の正直な身体の反応が疎ましく思えてならない。
 矢城はぐったりしたナオの横で「俺、ますますナオが好きになった。責任取れる男になるから。だから、俺のこと、ちゃんと考えて欲しい。ナオ……、好きだよ。もう離れたくない」と言って抱きしめた。

「……ふたりとも勝手だよ……。あたしの気持ちを乱す事ばかりするんだから……」

「ナオが素敵過ぎるからだよ。あ、俺、いつの間にかナオって呼んでる! いい?」

「なんでもいいよ……。罪悪感ゼロなんだね……」

「でも……、嫌がってなかったじゃない?」

「やめてって言ったじゃない!?」

「……止まらなかったんだ……」

「お願い……。今日はもう帰って……。ちょっと考えさせて……」

 矢城はわかったと言って、服を着ると、ナオのおでこにキスして部屋を出て行った。


 どうしたらいいの? ふたりと付き合うわけには行かない。


 助けて……飯野さん……。


 ナオはシャワーを浴び、着替えると、タクシーで飯野のマンションに来ていた。携帯を取り出し、電話をかける。

「なにやってんだろ……あたしは……。電話になんか出るわけないじゃん……」

『はい、はい』

 あ、出た……。

『も、もしもし……、ナオです……』

『うん、どうしたの? 夕食のお誘い?』

 ナオは時間など気にしていなかった。

『あ、ごめんなさい……。あたし、どうしたらいいかわからなくって……。飯野さんしか頼る人いないから……』

『…………。今どこにいるの?』

『マンションの……下……です……』






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【T.M.R. LIVE REVOLUTION `12】

2012.09.23(19:55) 737



2012年5月、東京・国立代々木競技場 第一体育館で行われた15周年記念を締めくくるLIVEを収録した[Blu-ray]

どの曲もアレンジがカッコ良くて、特に数年以上前の楽曲のアレンジは、イントロだけでは判明出来ない程。(良い意味で)

デビュー以来からのファンなら聴き比べる事が出来るし、最近ファンになられた方々には、過去のアルバム曲と出合える事が出来る。最後までMCを入れず、歌い続ける西川さんの半端ない声量。
自分には歌しかないと言う彼の思いが凝縮されたLIVE。

“捧げるもんは、これ(歌)しかない”

その言葉に、私も鑑賞しながら思わず込み上げる。

収録日でない日のMCも観る事が出来て、ファンとしては嬉しい Bonus Movie も収録されている。
 
 
 




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『想いが届く時』【11】

2012.09.23(05:30) 728

『想いが届く時』【11】-動き始めた感情-


 ナオが退院した日に飯野からメールが来た。

『退院おめでとう!
ほんとに良かった。お見舞いにもろくに行けなくてごめんね。なかなかメールも出来なくてすまない。とにかく無理しないで、ゆっくりしてていいから。会社の方はみんなで協力して、何とかなってるから安心してね。今日は退院祝いのお酒は飲んじゃだめだよ(笑)。またメールするね』

 飯野さん……。あんまり優しくしないでよ……。

『ありがとうございます。みんなに心配かけてしまって、ほんとにごめんなさいm(_ _)m
お仕事忙しいんだから、お見舞い来てくれるだけで嬉しかったです(*^-^*)。メールもくれたり、凄く元気付けられましたよ~。様子見ながら来週にでも復帰出来ればいいかなあーって思ってます。お酒は暫く我慢しますよ~(-.-;)』

 ナオは自分の気持ちを抑え、普通に返信した。


 2日程家で過ごし、3日目から毎日矢城に面会に行っていた。退院して1週間が過ぎ、ナオは仕事復帰した。みんな優しく迎えてくれて、後は矢城の復帰まで頑張ろうと言っていた。植田さんも残業してくれていたらしい。

「すみませんでした……。負担をかけてしまって」

「ほんとよ。お陰でちょっと給料増えそうだけど。でも良かったわねー、後遺症もないみたいだし。ナオちゃん、守られてるのね。これでやっと残業から解放されるわ~。あ、でも来週からね。今週いっぱいは、あなたは残業しなくていいから」

 相変わらず、ちょっとトゲのある言い方で慰める。

「大丈夫です。しっかり休ませてもらいましたから」

「だめよ! 若いからって無理が利くと思わないでね」

「あたし、もう、そんな若くないですよ~」

「だったら尚更じゃない? 言っとくけど、来週から私は一切残業しないから。そのつもりで」

 植田さんなりの心使いに、ナオは感謝していた。快気祝いをしてくれる話が出たが、ナオは、矢城が復帰してからにして欲しいと断った。それからナオは、矢城が退院するまで、出来るだけ病院に顔を出した。矢城には離れて暮らす母親と妹がひとりいて、事故の時にもナオに頭を下げに来ていた。退院後も何度か顔を合わす事があった。

「ナオさん、いつもすみません……。私がまめに来られればいいんですけど……」矢城の母親が恐縮する。

「いいえー。私が勝手に来てるだけですから気にしないでください。私に出来る事があれば、やれる範囲でやりますから、安心してください」

「あんたにはもったいないくらい、かわいい女性(ひと)よね~」

「だから、前にも言っただろ? ナオさんは俺を心配して来てくれてるだけだって!」

 矢城の母親は、ふたりが付き合っていると勘違いしているらしく、ナオが来るといつも病室から出て行く。

「気を利かせてるつもりみたいです」

 ナオは「みたいね」と言って笑った。 

 矢城とナオは、短い時間ではあるが、会う度にお互いの自分の事を少しずつ話始めていた。矢城の父親は、矢城が15歳の時に工事現場の事故で亡くなっていた。だから今回の事故では、母親がひどく心配し、息子まで連れて行かないでと、半狂乱気味に泣き叫んだと言う。助かった時には、夫が守ってくれたと、涙ながらに泣き崩れていたらしい。

「ウチもさ、あたしが目を覚ました時、父親がいてさ、久しぶりに父親の顔見た気がしたよ。やっぱり心配してくれてたんだなあーって思っちゃった」

「当たり前じゃないですかー。心配しない親なんていないですよ」

「でもね、学校の行事も来たことなかったし、母親が具合悪い時だって、出張に行っちゃった人なんだよー。お母さんも良く我慢してるなーって思ってるんだ……」

「ナオさんって、兄弟(姉妹)は居ないの?」

「うん……。ひとり娘。箱入り娘なんだよ」

「は……こ……いり?」

「まんまでしょ?」

「いや、箱から飛び出して、伸び伸び育って野生化したみたいだね」

「あら、良く分析出来ました。――――ってか、矢城くん!? あたしにタメ口利いてる!」

「えっ! あっ! わっ! 俺、どうかしてました! ごめんなさい!」

 ナオは「慌ててる矢城くんったら、かっわいい~」とゲラゲラ笑った。

「いいよ、いいよ、タメ口で。それに、入社したのは矢城くんの方が先なんだし、先輩じゃな~い? 今までが間違ってたんだよ。自然に出ちゃったんなら、それって距離感が縮まったって事じゃない? なんだか嬉しいな~」とニコッと笑った。

 ズッキューン!! か、か、かわいい……。

 矢城の心臓の鼓動が大きくなった。と同時に別の部分も大きくなった。

 ヤバッ! ナオさんにばれる!!

 上半身を起こしてベッドに座っていた矢城が、急に下半身をぞもぞし出した。

「ん? どうしたの? 足が痒いの?」ナオは矢城の下半身に掛かっていたタオルケットをめくった。

「あ! ダメ! あ……、あ……」

 矢城の大事な部分が盛り上がっているのがわかる。

「――――――!! …………」

「だからダメって言ったのに……」

「なんで? あたし……の……せい……?」

「ナオさんが、嬉しいって言うし、メッチャかわいく笑うし……。その笑顔に反応しちゃったみたい……。思春期でもあるまいし……。こんな事でこんなになった事なんかないのに。どうしちゃったんだろ、俺の身体……。なんか今、すごく恥ずかしい……」

 矢城は少し顔を赤らめた。

「ま、まあ、いろいろあるよね? 女だって、その……ね? なんて言うか……、複雑だし……。生理現象だもの。仕方ないよ」

 そう言いながら、ナオは矢城の事が急に愛おしくなると同時に、胸の奥がドキドキするのを感じた。考えてみれば、歳だって3歳差。離れているうちに入らないじゃないか?

「あ、そうだ! 雅樹がね、あんまり顔出さなくて悪いな、って言ってたよ。でも、俺の顔見るより、ナオの顔見てた方が矢城は喜ぶだろうから、遠慮しといてやる、とか言ってんのよ。来りゃあいいのにね」と、話題を逸らす。

「雅樹さん……。ホントはナオさんと一緒に居たいのに、ナオさんが俺のとこばっかり来てるから、誘えないんじゃないのかな?」

「えっ?」

「俺はもう大丈夫だから、もっと雅樹さんと一緒にいてあげてください」

「矢城くん? 何か勘違いしてない? 雅樹とは友達だよ? 雅樹だって、あたしに矢城くんの様子を聞きにきて、元気だったよ、って言うとほっとしてる。今はあたし達にとっては、矢城くんの方が大事なんだよ」

「今は……なのか……」

「あ……。いや、だから……。もう~! とにかく仕事復帰出来るまでは、他の事考える余裕がないって事!」

「プッ。わかってますって。ナオさんたらムキになっちゃって、ホントかわいいんだから」

「下半身殴るよ!」

 矢城が思わず股間を押さえる。

「やだ! 右足の事だよ」

「しまった……。やられた……」


 その剥き出しになった腕を良くみると、かなりいい筋肉をしている。何で今まで気付かなかったんだろう? 鍛えてるとは言ってたけど、腹筋とかも割れてんのかな? ハッ! だから元気がいいの? やだ、なに考えてるんだよ。

 ナオはその日以来、矢城を男性として意識するようになっていた。

 矢城のギプスがはずれ、ナオも間に合う日は一緒にリハビリに立ち合ったりしていたが、幸いにして回復が早く、通院リハビリとなった。


 事故から4ヶ月。矢城は仕事復帰した。なんて回復力の早い男なんだろ。





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『想いが届く時』【10】

2012.09.23(00:00) 727

『想いが届く時』【10】-雅樹と矢城-



 ナオが意識を取り戻したのは翌日の夕方だった。病室には母親と、珍しく父親の姿があった。ふたりの後方に雅樹もいる。3人は、ナオが意識を取り戻した事に安堵の表情を見せた。頭と腕、足に包帯が巻かれ、腕には点滴が打たれていたが、傷は浅く、異常がなければ、2週間程の入院で済むらしい。ナオは暫く痛みに耐えていたが、大事な事に気づく。

「矢城くん……。ねえ! 矢城くんは!? 彼はどこ?」

 3人の表情が曇る……。口を開いたのは雅樹だった。

「矢城は……、まだ意識が戻らないんだ。……。矢城の方は俺が様子見に行くから、とにかくナオは自分の事だけ考えろ!」

 母も頷く。

「意識が……戻らない? そんな……。大丈夫よね? あたしが生きてるんだもの……」

 ナオは祈った。それしか出来なかった。


 3日後、意識を取り戻した矢城の第一声は「ナオさんは無事ですよね?」だった。矢城は右頸骨を骨折し、全身打撲したものの、命に別状はないとの事。相手の運転手は即死だったそうだ。
 警察官の話によると、事故の状態から見ても、命がある事が奇跡。ナオに関しては、軽い怪我で済んだ事が信じられないとの事だった。衝突後の運転処理が、命の明暗を分けたとも言っていた。恐らく彼女を助けようと、必死に軌道修正をしたのだろうと……。

『ああ……。神様……。ありがとうございます。私達を守ってくださって、心から感謝いたします……。矢城くん、ナオを守ってくれてほんとにありがとう』

 ナオは涙を流し、震えながら手を合わせるのだった。


 矢城は、自分の不注意で、ナオや会社に迷惑をかけてしまった事を謝罪した。家族にも心配かけてしまった事に、自分を責め、一時はかなり落ち込んでいた。だが、矢城はスピードも出しておらず、落ち度は全くなかった事に、誰も矢城を責めず、励ましてくれていた。ふたりの関係を冷やかす者もいたくらいだ。



 半月後、ナオが退院。矢城はギプスがはずれたとしても、リハビリが必要な為、数ヶ月かかりそうだ。

「ごめんね、先に退院する事になっちゃって……」

「何謝ってるんですか! ほんとに良かったです。ナオさんが元気になって……。それだけで俺は生きて行けます」

「矢城くん……」

「俺もリハビリ頑張りますから!」

「あたし、仕事上がりに毎日来るから。一緒に頑張ろう?」

「そんな気を使わなくていいですって! 俺、こう見えて、結構鍛えてんですよ。回復力には自信ありますから」

「でも、ひとりで頑張るより、誰かいた方が、もっと頑張れるでしょ?」

「今以上に頑張れって言うんですかー?」

「そ! 早く元気になって欲しいもの」

「ナオさん……。俺の為に無理しないでください。そんな事されても、俺、嬉しくないですから。それに、ナオさんだって完全復帰したわけじゃないんですからね!」

「わかってるって。無理しなきゃいいんでしょ?」

 ナオは両親と一緒に病院を後にした。


 ナオを見送った雅樹は矢城と病室に戻った。雅樹は、ようやく矢城と話す事が出来た。

「リハビリはキツいな」

「ええ……。ナオさんにはあんな事言っちゃいましたけど、かなりしんどい気がするんですよね……」

「おまえ……、強くなったな。力だけじゃなく、気持ちの方も」

「ナオさんのお陰です」

 雅樹は、事故以来聞けないでいた、矢城の気持ちを確かめるように話始めた。

「矢城はさ、なんであの日、ナオと一緒に居たんだ?」

「俺が……誘ったんです。前の日に雅樹さんと一緒にいるとこ見ちゃったから……。軽く焼きもち妬いたんです。俺もバカですよね……。だからバチが当たったんですかね?」

「んなわけねーだろ? おまえは、ナオが好きなんだよな? いつからだ?」

「多分……、ナオさんが会社に来た時からです。初めて見た時から、ときめいてました。最初は、雅樹さんといるナオさんを見てるだけで満足だったんです。でも、段々思いが強くなって、短い時間でも一緒にいたいと思うようになったんです」

「そうか……。おまえが言ってた好きな女性(ひと)って、ナオの事だったんだな……。ナオには気持ち伝えてあるのか?」

「ええ……。告白しました。でも、ナオさんは俺の事、異性として扱ってないと思いますよ。かわいい子を見つけろ的な事言われちゃいました……。ナオさんは、片想いの彼をあきらめて、多分……、今は雅樹さんに気が向いて来てると思うんですよ」

「片想いの彼? 知ってたのか?」

「どんな男性(ひと)なのか知りませんけど、あきらめなきゃならない人だって言ってましたし……」

「それで、なんで俺に気が向いてるって思うんだ?」

「雅樹さんといるナオさんの笑顔は本物です。心から素で笑ってます。俺はその笑顔を見ていられれば、それで満足です。だから、この事故で、その笑顔が奪われなくて、ほんとに良かったと思ってるんです」

「その笑顔を自分のものにしたいとは思わないのか? おまえの前でも、素で笑って欲しいとは思わないのか?」

「思いましたよ! だから何度も誘いました! でも、ナオさんは、ずっと俺を見てくれてませんでした。俺の前で笑う笑顔の奥には、なんとなく寂しさが残ってるんですよ。だから、俺じゃダメだと思ったんです。ナオさんの相手は俺じゃないって……。まあ、そんな事最初からわかってましたけど」

 矢城はさばさばした表情で話した。

 雅樹は、ナオを思う矢城の気持ちは本物だと感じた。自分だってナオが好きだ。しかし、窮地に追い込まれ時、矢城のようにナオを守る事が出来ただろうか? ナオの気持ちも確認しないまま、自分の欲望だけでナオを抱いてしまった俺は、恋愛ごっこしてるだけなんじゃないか?

「事故にあった時ってさ……、何か考えたか? 何か思う事あったか?」

「ん~、目の前に突然車が見えましたからねー。ナオさんにぶつかったらおしまいだと、必死でハンドルを切った記憶はあるんですけど、あんま覚えてないんですよー。気がついた時はベッドの上でしたから」

 矢城はまたもや淡々と話す。

「だよな……。でも、おまえのお陰でナオは軽いケガで済んだんだ。命の恩人だよ」

「違いますよ! 俺のせいでナオさんを危険な目に遇わせてしまったんです! 俺は疫病神ですよ!」

「そんな自分を責める事言うな! おまえは悪くない! ぶつけた相手が、おまえらに命を預けたとは思えないか? 彼が全責任を負ってくれたんじゃないのか? とにかくふたりとも生きてる。それだけで十分だ」

「雅樹さん……。やっぱり雅樹さんは男らしいですね……。俺なんかが敵うわけないです……」

「いや……。俺は矢城の方が強いと思ってる。ナオに対するおまえの気持ちは、恐らく……俺より強い……」

「ダメですよ! 雅樹さんにはちゃんとナオさんを守ってもらわなきゃ困ります! そんな弱気にならないでくださいよ!」

 雅樹は苦笑いしながら、また来るからと言って、病室を出た。


 俺がナオを守る……。出来るのだろうか? 雅樹は、自問自答しながら家路を急いだ。




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『想いが届く時』【9】

2012.09.22(00:30) 726

『想いが届く時』【9】-ナオと矢城-



 ナオは自分のベッドの中で、昨夜の雅樹との事を思いだし、少し後悔していた。


「ナオ……。俺……、ナオが欲しい……」

 雅樹の優しい指の動きに、ナオの身体は熱を帯び、雅樹の唇に敏感になって行く。

 ああ……、あたし……、まだ酔ってんの? なんだかすごく気持ちいい。

 ナオの身体も、すでに雅樹を求めていた。欲望のまま雅樹に抱かれたナオ……。


 あたしは……、まだ雅樹の事、好きかどうかわかんないのに、雅樹に身を任せてしまった……。最後に飲んだ冷酒がいけなかったかなあ~。いやいや、そんな問題じゃないよ。でも、身体は正直だ……。あの時、あたしは完全に淫らな女になってた。お酒強いと思ってたけど、昨日はやっぱり飲み過ぎたのかな。日本酒はやばい。後からジワジワ酔いがくるから……。やだ、またお酒のせいにしてる。あ~、なんて浅はかなやつ。バカだ。あたしは……。

 ナオが勝手に自分を責めてると携帯が鳴った。

 矢城くん?

『はい……』

『あ、ナオさん、起きてました?』

『ん……。あんま寝てない……』

『飲み過ぎですか?』 

 ドキッ!!

『えっ……、そんなんじゃないよ』

『あの、急ですけど、今日、どこかへ行きませんか?』

『どこか?』

『あ……、寝ててもいいですから』

『意味ないじゃん?』

 ナオはあまり気分が乗らなかったが、家にいると雅樹の事を考えてしまいそうだから、出かける事にした。1時間後、矢城が迎えに来た丁度その時、母親が夜勤から帰宅した。

 車のドアの前に立っていた矢城の姿を見ると「あら? ナオの新しい彼氏さん?」と声をかけて来た。

「あ! ナオさんのお母さんですか? はじめまして。 矢城と言います。彼氏……になりたい男のひとりです……」

 そこへナオが家から出て来た。

「お帰り~。あれ? ご対面しちゃったの? あたし、ちょっと出かけてくるね」

「気をつけてね。じゃ、矢城くん? 頑張ってね! 行ってらっしゃ~い!」

「は? 何を頑張ってなの?」

「さ、さあ……。なんだろうね……。じゃあ行こうか」

 矢城は車にナオを乗せ、ゆっくりと走り出した。

「急に誘ってすみません。ナオさんに会いたくて仕方なかったんです……」

「あ……、ありがと……」

「どこか、行きたいとこありますか?」

「えっ? あ……、そ、そうね……。矢城くんは? 行きたいとこあるんじゃない?」

「俺は……、ナオさんと一緒なら、公園でも河川敷でも構わないけど」

「矢城くんたら~、例えが地味過ぎだよー」

「で、ですよね。でも、ほんとの事だから。それに、地味だなんて河川敷さんに失礼です」

「う……、じゃあ、河川敷さんに行く? 失礼しちゃったお詫びに」

「お詫びって! オッケーですよ。あ、じゃあ、土手でも歩きます? 今日は外の方が気持ち良さそうですし」

「うん、うん、いいかも」

 矢城は車を走らせ、土手の下の空地に止めた。ナオと上まで上がり、暫く歩いてから、土手の斜面に座った。

「なんかさ、ドラマのワンシーンみたいだね」とナオがはにかむ。

 矢城はその横顔を眺めてから、前に向き直すと「実は、聞きたい事があるんです」と真顔で言って来た。

「なあに?」

「ナオさんの片思いの相手さんとは、どうなったんですか?」

 ドキッ……!

「どうにもなんないよ。ってか、最初からどうにかなる相手じゃなかったから……」

「あきらめたって事?」

「う……ん。あきらめられないけど、あきらめるしかないってゆうかね……」

「そうなんですか……。だからですか? だから雅樹さんと付き合ってるんですか?」

「えっ! 付き合ってないよ! なんで?」

「でも、雅樹さん、彼女と別れたんですよね?」

「ん? 知ってたの?」

「俺が前、好きな女性(ひと)の気を引くにはどうすればいいかって聞いた時、雅樹さんは、彼女をほかの男に取られるようなやつに聞くな! って、苦笑いしてました」

「そ、そっか……」

「それからの雅樹さんは、ナオさんと前より親しげになってるし、よく一緒にいますよね? 昨日もずっと一緒だったんでしょ?」

 ドクンッ!

「昨日?」

 矢城は、少し間を空けてから、ふたりの後をつけてた事を告白する。今までも何度か同じ事をしたと、白状した。だが、いつも途中で引き返し、ずっと追うことは出来なかったと言う。

「すみません……。俺、ほんと情けないヤツですよね……。ナオさんの事好きだから、誰とどこ行くのか気になって仕方なくて。そんな事すれば、余計ナオさんに嫌われるってわかってるのに、じっとしていられなかったんです。でも、昨日のナオさんの楽しそうな顔を見て、俺じゃダメだってわかりました……。あんな笑顔、俺には見せてくれないから……。俺は笑ってるナオさんが大好きだから、その笑顔を見てるだけでほっとするんです」

 ナオは恥ずかしかったが、正直に話してくれた矢城に優しさを感じた。

「ありがとう。ちゃんと話してくれて。……。でもね、あたしは矢城くんに好きになってもらうような人間じゃないよ……。だらしないとこや、だらしないとこや、だらしないとこ……」

「ナオさん!!」

「へへっ、ごめん。矢城くんが真っ直ぐ過ぎるからさー。あたしなんかよりかわいい子、いくらでもいるよ。でも、嬉しかったよ。好きって言ってもらえて。もっと中身を磨かなきゃだねー」

「俺、前にも言いましたけど、本気で女性(ひと)に恋したの、ナオさんが初めてなんです。だから、どうしていいかわからず、間違った行動をしてしまったのかも知れません。ほんとにごめんなさい……」

「いいのよ。だってあたし、全く気付いてなかったんだから。尾行されてても気付かないタイプよね。刑事さんも楽勝だわ。フフッ。だから、気にしないで。またやったら、口聞いてあげないけど!」

「ナオさんはいつもそうやって、話を明るくしちゃうんですね。だから好きなんですけど」

 矢城はもう二度と陰気くさい事はしないと約束した。

「ナオさん? お腹空きません? 朝から何も食べてないんでしょ?」

「そうだった……。若干二日酔いの気があったから……」

「やっぱりー。じゃあ、胃に優しい焼肉にしますか?」

「オイッ! これ以上闘わせるんじゃない!」


 ふたりは車に戻り、街中へ戻ろうとしていた。




 急カーブに差し掛かり、スピードを緩めた瞬間、対向車が反対車線にはみ出し、矢城の車と激突。



 ふたりは意識を失った…………。




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『想いが届く時』【8】

2012.09.21(21:00) 725

『想いが届く時』【8】-ナオと雅樹-



 数日間ほど多忙期だったため、作業班は残業が続いていた。そのお陰で、ナオの気持ちも少づつ落ち着き始めていた。週末になって誘ってきたのは雅樹だった。

「飯でも行かねえか?」

「あ、うん、行く行く」

 雅樹につれて来られた店は、珍しく居酒屋だった。

「なんで? 車だよ? 雅樹が飲めないじゃん?」

「いいんだ。俺は飯食うから、ナオは酒飲め」

「なによそれ~」

「じゃあ、……、君はお酒を召し上がれ。僕は食事をさせていただきますから」

「言い方の問題じゃない!」

「まあ、いいから飲めよ。最近飲んでないんだろ? なんか、もひとつ元気が足りねーんだよな。今のナオにはアルコールが必要だ! ぶっ倒れても俺が送ってやるから、安心して飲め!」

「なおさら危険じゃん!?」

 雅樹は、冗談抜きで、気が済むまで飲んでいいからと、ナオに気を使ってくれていた。

「あたし、元気なさそうに見える?」

「うーん。なんとなく無理してるっつーかさ。心から笑ってない感じがする」

「心から?」

「ああ……。おまえさ……。飯野さんと何かあっただろ?」

「えっ……。何でそう思うの?」

「ナオの態度見てりゃわかるさ。ま、俺はナオが飯野さんの事が好きだって知ってるから、そう見えんのかも知んねーけど、ナオが飯野さん見る目が、悲しげっつーかさ、時々今にも泣きそうな顔すっから、俺、結構ハラハラしてんだぜ」

「やだ……、あたし、そんな顔してたんだ……。雅樹には見抜かれちゃったか……」

「何があったんだよ。俺には言えない事か? まさか、告白して振られたとかじゃないだろうな?」

 ぽ、か~ん…………。

「雅樹のばか……」

「えっ、おい、マジか? 言ったのか? ナオの気持ち」

 こ、く、り。

「そっか……、言っちゃったか。まだ早かったんじゃないのか?」

「だって、もう止められなかったんだもん……」

 ナオは、飯野との事を話し始めると、お酒を飲むペースがどんどん速くなって行った。ただ、飯野に身を委ねた事だけは誤魔化した。

「そう言えば雅樹さ~、ナオの態度見りゃわかるって言ってたけど、そんなヒマあったぁ~。どんな目で見てたのぉ~?」

「どんなって……。ナオがいつもと様子が違ってたから、心配で見てただけだけど?」

「ってことはさ~、ナオの事、気になるってこと~?」

「そりゃ、気になるだろうよ、友達としてさ」

「友達として……なの?」

「どうしたんだよ。おまえ、珍しく酔ってんのか? 口調もおかしくなってんぞ」

「酔ってんのかな? ふう~……。だよね。友達だよね……。雅樹ぃ~、あたしさ、飯野さんをあきらめきれないんだよ。どんなに突き放されても、彼が欲しくてたまらない……。どうしたらいい?」

「ナオ……。おまえ……。飯野さんに抱かれたろ?」

「えっ……」

「さっきのナオの話聞いてて、その流れで男が我慢出来るはずないさ。俺だったら、間違いなく押し倒すね」

「違う! 飯野さんはナオが求めても応じてくれなかったんだよ。自分を大事にしなきゃだめだって!」

「なんで飯野さんを庇うんだ? そんなにいい人にしたいのか? 俺にウソつくなよ! 抱かれたからこそ、また欲しくなるんだろう?」

「雅樹……」

「俺はさ、別にナオと飯野さんがそうなったからって、責めるつもりなんかないぜ。好きなら当然起こる感情だからな。ただ、飯野さんがナオを受け止められない以上、追ってもナオが辛いだけだろ? どんなに好きだって、報われないんじゃ、引くしかないんだよ。俺も…、真由をあいつから奪う勇気はなかったからな……」

「…………」

「すぐには無理だろうよ。時間かかるかも知んねーけど、少しづつ外に目を向けなきゃだめなんじゃないか?」

「それ……、あたしが飯野さんに言ったセリフだ……」



 店を出る頃には、ナオの気持ちはかなり軽くなっていた。

「やっとナオらしい顔に戻ってきたな。しかし、よくあんな量飲んで平気だよな~。女にしとくには勿体無いぜ」

「可愛げないよね」

「そのギャップがいいんじゃね? かわいい顔して飲んべえなやつでさ」

「か、かわいい?」

「何照れてんだよ」

「照れてないもん! 言われ慣れてるもん!」

「やっぱかわいくねー!」

 雅樹は車に戻ると「どうする? 明日休みだし、このままドライブにでも行くか?」と言って来た。

「あれあれ~? 帰したくなくなったのかなぁ~?」

「ちげーよ。おまえが帰りたくない顔してっから、気を使ってやってんだよ」

「はいはい、そーゆう事にしときますかねー」

「わかったよ。ナオん家に送ってくよ」

「え……、あ……、あの……、ド、ドライブ……、連れて行って……くれませんか?」

「ぷっ、素直でよろし」


 雅樹は海岸まで車を走らせた。窓から入る秋の夜風が、ナオの身体を気持ちよく吹き抜ける。海岸沿いに車を止め、ふたりは外に出る。

「気持ちいいね。酔いが覚めるわ~」

 雅樹はそんなナオの横顔をじっと見つめていた。急に無口になった雅樹に、ナオは首を傾げる。

「雅樹? どうかした?」

「ん? あ、いや、俺達……、友達……だよな?」

「雅樹がそう言ったんじゃん?」

「だよな……」

「何? 変だよ、急に」

「俺も、自分で変だなって思ってんだ」

「自覚ありかよ~」

「だってさ、俺、気が付けばナオの事見てるし、ナオが元気なけりゃ気になるし、ナオが泣いてればほっとけないし、時間が出来れば、ナオの事誘ってるしさ。頭ん中がナオだらけなんだぜ。何でだと思う?」

「お、と、も、だ、ち、だからじゃない?」

「ナオはどうだ? 俺の事、友達だからって、そこまで気になったり、心配したりするか?」

「そんな事……。考えた事ないよ。誘われれば嫌じゃないし、困ってたり、相談事があれば力になってあげたいとは思うよ」

「それだけか?」

 雅樹が何を言いたいのかわかっていたナオだったが、自分の口からは言いたくなかった。

「それだけって……。雅樹は、あたしに何を言わせたいわけ?」

「ふ……。何だろうな……。俺さ……、ナオに惚れてんのかも…………」

 ドッ、キン!

 ナオが、何も言えずに黙ってると、雅樹はひとりで喋り始めた。

「実はさ、真由と別れてから、何回か合コンに行って、デートもしたりしたんだ。けど、ちっとも楽しくねーんだよ。充実感がないっつうかさ。ひとりになると、今頃ナオは何してんだろうって、ナオの顔を思い出して会いたくなる……。ナオといると、不思議と自分が出せるんだ。本音が言えるっつうかさ。それって、完全に気持ちがナオに向いてるって事だろ? ぶっちゃけるとさ。さっきの飯野さんの話を聞いてる時だって、冷静じゃいられなかったんだぜ。そん時確信したよ。俺はナオの事マジなのかも知んねー、ってな」

 ナオは雅樹の気持ちを聞きながら、自分の心を確かめていた。

「同情してるんじゃない?」

「はぁ?」

「あたしが飯野さんにフラれたから、不憫に思ってるんと違うの?」

「ふ……。まさか……。むしろ俺にとっちゃ、ナオの気持ちを引き付ける絶好のチャンスなんじゃねーか? 俺はその事で、ナオへの思いがはっきりしたわけだし」

「チャンス? そんな人の弱味につけこむような言い方しないでよ。軽く思えちゃうじゃない?」

「わりい~。でも俺、自分でも感心するくらい真剣なんだよ」

「感心、って……。使い方間違ってない?」

「間違ってようが、とにかく、俺はマジだって事!」

 雅樹がホントに真剣な顔をするから、ナオもちゃんと向き合った。

「う、うん……。あたしも雅樹といると楽しいよ。気を使わないってゆうか、安心感があるし……。でもそれって、まだ恋心じゃない気がするんだ……。なんてゆうのかな~、ドキドキするようなトキメキ感はないんだよ……」

「俺に足りないのはドキドキ感か~」

「そ、それは雅樹に足りないんじゃなくて……、あたしの気持ちの問題だから!」

 雅樹は少し考えてから「飯野さんの事はあきらめろ」と言ったかと思うとナオの身体を引き寄せ、強引にキスをして来た。

「――――――――!!」

 ナオは離れようとしたが、雅樹の力には勝てるわけもなく、更に強く唇を求めてくる雅樹に、次第に力が弱まって行くのを感じた。


 雅樹……、やめて……。あたし、冷静じゃなくなっちゃうよ……。


 ナオの手が、次第に雅樹の背中に回って行った。





 『想いが届く時』-【9】へ続く-



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2012年09月
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