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●ホクロ除去〇

2012.10.31(19:55) 771

数十年前からそれはあった。

こめかみの延長の先、髪の生え際に出来ていたため、髪を下ろしている限り、まず他人に気付かれることはない。

しかし、ここ数年、それは盛り上がり、痒みを放ち、血液を滲ませ、カサブタになって剥がれ落ちる。と言う症状を繰り返すものの、一向に小さくならない。
それでも放置し続けて数ヶ月・・・・・・

ある時、それを長女に見せると、写メると言う行動を起こされた。

「ほら、こんなんなってるよ」

「う……。意外とデカイ」

「悪性だったら困るから、診てもらったほうがいいよ」強く診察を促される。

自分としては痛くもないし、正直めんどくさい。

だが、次女が別の症状で診察を受ける都合で、ついでに診てもらう事にした。


未「これなんですが、ホクロだと思っていたら、痒くなって、血も出て、カサブタになったりで、何なんですかね?」

医「ん~。まぁ、ホクロには違いないね。窒素をあててみるか」


そんな簡単に言われ、ああ、やっぱりただのホクロだったのか。と思っていると、大きなガスボンベのような形をした容器から、白い煙を放つ巨大綿棒を取り出すと、その部分にあてがった。

《ジュッ、ジュッ》と音を立てながら、数回繰り返す。

医「はい、こんなもんかな? あれ? ここにもあるね。こっちもついでにやっておくか」

はいっ? ついでにやってくれるの? 頼んじゃいないが。

確かに頬に小さいが黒々したホクロがポツンと存在してたけど、特に気にするほどでもなかったのに。


ついでに診察を受けた身だけど、治療もついでにされるとは思わなかったよ。


処置後は、多少のヒリヒリ感が暫く続いたが、我慢出来る範囲。

赤くなった皮膚が、黒っぽくなると、いつの間にか剥がれ落ちる。と言う行程を繰り返し、1週間置きに4回ほど通ったところで、ほぼ目立たなくなった。


4回目の時。

医「どうかな?」

未「もう、皮が剥けて来ないんですよ。これ以上きれいになるんですかね?」

そう言った瞬間、看護師さんが、勢い良く振り向き、未月の顔を凝視する。


――――いや、あの、きれいにって、顔じゃなく、ホクロの事ですが。。。


医「じゃあ、一旦今日でおしまいにしましょう」





と、言うわけで、直径約7㎜くらいのやや大きなホクロと、ついでのちっちゃいホクロは、皮膚科の治療で数千円で除去出来ました



人目につかぬ場所だけに、恐らく誰にも気づかれる事はないでしょう



しかしながら、娘の強制力がなかったら、いまだに鬱陶しいままでいたかも知れませんね。
悪性じゃない事にも安心出来たし、きっかけをくれた娘達に感謝
 
 

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『向日葵~笑顔に戻るまで~』【8】

2012.10.31(02:00) 751

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【8】―向日葵―


 ―そして夏。

 まなみは無事に女の子を出産した。予定日より早く産まれた事で、奇跡が起きた。それは、カナメと同じ誕生日になったのだ。

「同じ日に産んでくれてありがとう。良く頑張ったね」

「この子がパパと同じ誕生日を望んだのよ。彼女の強い意思を感じたわ」

「……パパ……」カナメは照れくさそうに我が子を見た。

「この子の名前はひなたしようと思ってるんだ。向日葵にちなんでさ。お日さまに向かって歩いて行けるように」

「うん……。すてきな名前……」まなみは、この子には明るい人生を歩んで欲しい……。そう言おうとしたが、それは口には出さなかった。ふたりの中にはもう隆二はいないのだ。


「僕と同じ誕生日じゃさー、僕の事は蔑ろにされそうだなあ~」

「だいじょーぶ! カナメにはあたしがちゃんといい事してあげるから。この子が成長したら、二人で祝ってあげるわよ」

「何だよ、いい事って。子供扱いして」

「あ! 大事な事言うの忘れてた!」

「何?」

「カナメ、お誕生日おめでとう!!」

「!! そうだったね! それ大事!」

 まなみはカナメを抱き寄せ、深くキスをした。

「来年はちゃんとプレゼント用意するから、今年はこれで許してくれる?」

「いいよ。来年2回分してくれれば」

「もうー。やっぱり子供じゃん!」


 カナメは幸せだった。



 ――1年後。

 レストラン奏ではダイキが機敏に動いている。ある日、閉店間際にひとりの女性が来店して来た。

「あの……、まだやってますか?」

「あ、大丈夫ですよ。何名様ですか?」

「ひとりです……」

「こちらへどうぞ」

「ご注文がお決まりになりましたら……」

「オムライス……、オムライスを……、お願いします」

 ダイキが聞き終える前に注文してきた。メニューも見ずに。

 カナメはその様子を見て、初めてまなみが来店して来た日の事を思い出していた。

「か、かしこまりました」ダイキは不思議そうに見ながら、オーダーを繰り返した。

 女性は、時々ほっとしたような表情を見せながらきれいに完食した。最後のお客様が帰るのを待っていたかのように、ダイキに小声で話し掛けて来た。

「ご馳走さまでした。これは鳴瀬さんがお作りになったのですよね?」

「はいっ? ええ……、そうですが。失礼ですが、センパ……いえ、鳴瀬のお知り合いの方ですか?」

「……、いえ……、一方的に知ってるだけなんだけど……」

 一方的?

「あの……、呼びましょうか?」

「ダイキ、お前の声、でかいから聞こえてるよ」

「あ! 先輩!」

「僕が鳴瀬ですが、僕の事ご存知とか?」

「あなたが鳴瀬カナメさん?」

 フルネームを知ってる? 一体誰だ?

 カナメは女性の前に座った。

「失礼ですが、あなたは?」

 その女性は暫くカナメを見つめてから、視線を下に落とす。数分間の沈黙の後、ゆっくり口を開いた。

「あなたが素敵な人で本当に良かった……。私はあなたの前に現れてはいけない人間なんです。でも消え去る前に、あなたの作ったオムライスだけは食べておきたかったのです。本当に優しくて愛情がこもった味でした。美味しかったですよ。あなたのお人柄がわかりました。これで思い残す事はありません。ありがとう……」

 そう言って一礼すると、席を立ち、五千円札を置いて店を出て行った。

「あ! お待ちください! お釣をお忘れです!」

 ダイキとカナメがあわてて追いかけると、すでに待たせてあったタクシーに乗り込んでしまった。

「お釣は鳴瀬さんのお子様のお菓子代にしてください……。まなみさんとお幸せに。さようなら」


 タクシーは走り去って行った。

 まなみの名も知ってた……。一体誰なんだ?



 カナメは帰ってから、その女性との会話を全部話した。

「何歳位の人?」

「ん~、60くらいな感じかなあ~? ちょっとやつれた印象もあったけど、きれいめだったよ」

「…………。もしかしたら……。でも、まさか……」

「心当たりあるの?」

「…………お母さんかも……」

「えっ!!」

「だって、他に思い当たらないもの。カナメが素敵な人で良かったって、そう言ったのよね? きっとそうだわ。間違いない! なんで今更……」

「思い残す事はないって言ってた……。もしかしたら……」

 ふたりは顔を見合せ、同じ事を思っていた。


 まなみの母は死期が近いのではないかと。


「どうする? 探す?」


「今更……。今更何よ。会いたくなんかないわ」

「まなみ?」

「だってそうでしょ!? あたしが一番辛い時にそばにいてくれなかった人よ! あたしを捨てた人よ! もうとっくに忘れたわ!」

 カナメはまなみを強く抱きしめる。

「まなみのお母さんだって、後悔してるんだよ。まなみに会いたくても、合わす顔がない。だから僕に会いに来てくれたんだ。まなみの夫がどんなやつか見れば、まなみが今幸せかどうかわかると思ったんじゃないかな……」

 まなみの肩は震えていた。

「今のあたしには、カナメとこの子がいる。ダイキくんだって、オーナーさんだってあたしを支えてくれてる。それだけで十分幸せだよ。だから、今のままでいいの。あたしの母はあの時死んだのよ」

「まなみ……」

 カナメはまなみの気持ちが痛い程良くわかる。しかし、このままでいいのか? 生きてる間に会わせてやりたい気持ちもあるが、どこをどう探せばいいのかさえわからなかった。


  ――それから1ヶ月後のある夜。

 ひなたが向日葵の額の絵をじっと見つめながら微動だしない姿に不思議がっていると、カナメが帰宅し、1通の手紙を差し出した。

 宛名は鳴瀬カナメ、まなみ様。差出人が無記名だ。

「何これ? 気持ち悪いよ」

「店のポストに入ってたのをダイキが見つけて渡してくれたんだ。帰ってから一緒に見ようと思ってさ」

「大丈夫なの? カナメ、誰かに恨まれたりしてない?」

「それを言うならまなみの方じゃないか? 昔の彼氏とか……」

 ふと、まなみの表情が曇る。

「ま、まぁ、僕達はいい人だから、恨みの線はないね」

 ふたりは笑いながらも、落ち着かない。

「じゃあ、開けるね……」 カナメが封を切る。



『鳴瀬カナメ様、まなみ様。

 おふたりがこの手紙を読んでいると言う事は、私はもう生きていないと言う証です。

 私はまなみを残して逃げた最悪な母親でした。
 まなみが高校生になれば、なんとか生きて行けるだろうと、欲情に走ってしまった愚かな人間です。許してもらおうなどとは思っていません。
 私は15年一緒に暮らしていた男に裏切られ、財産をすべて持ち去られました。帰る家もお金もなく、住込で働いていたお店で、ある男性と知り合い、お付き合いを始めたのです。しかし、それも長くは続きませんでした。彼は自殺する直前になって、すべてを話してくれたのです。驚く事に、その男性はまなみの義理の父親だったのです。まなみが彼の息子である隆二さんの妻となり、しかもあんな辛い目に遭っていた事を初めて聞かされました。私は心臓が止まるのではないかと思うくらいの衝撃を受けました。こんな風に運命が巡って来るのかと……。まなみを抱き締めてやりたい。でもそれは許される事ではありません……。そんな時、自分が病に侵され、長く生きられない事を知りました。せめてまなみのご主人にだけでも会っておきたかったのです。彼に聞いていた通り、とても優しく思いやりのあるカナメさんを見て、安心しました。
 私は何も役に立てなかった人間だけど、彼が私の為に残してくれたお金と、私の少ない備蓄を役に立てて欲しくて、最後の思いを込めて書きました。彼は……、隆二さんのお父さんは、まなみを愛していました。嫁としてではなく、女性として。だから、身体を張ってまなみを守ってくれたのだと思います。だから、何があっても生きて行って欲しいのです。

 まなみ……、酷い親で、本当にごめんなさい。でもあなたの事は1日足りとも忘れた日はなかったです。それだけは信じてください。
 カナメさん、まなみをよろしくお願いします。
 皆様のご健康を祈願しています。さようなら』


 封筒には、隆二の父親の時と同じように、通帳と印鑑が入っていた。



「なんて事なの……。あの人のお父さんと付き合っていたなんて……」

 ふたりは言葉が出なかった。あまりに衝撃的な事実。そして皮肉な巡り合わせ。

 まなみがボソッと呟いた。

「いなくなってから謝るなんてずるい……」カナメは黙ったまま、ただまなみを抱き締めていた。

「でも、まなみのお母さんの消息がわかったんだ……。出来れば生きているうちに会わせてあげたかったけど……」

「うううん、会わなくて良かったのよ。これで良かったのよ……」まなみは自分に言い聞かせるように言った。

 カナメがふとひなたを見ると、座り込み、まだ言葉にならない声を出して喋っている。その視線はずっと向日葵の絵から動かない。

「まなみ、ひなたを見て!」

 まなみがゆっくりとひなたを見る。

「あの子、カナメが帰ってくる前から、ずっとあそこにいるのよ……」

「えっ! 僕が帰る前から?」

「そう。まるで誰かとお話してるみたいに」

「…………!」

 カナメは母の温もりを感じた。

「まなみ……。ひなたは僕の母さんと、君のお母さんと3人で話してるんじゃないかな? きっとそうだよ。まなみはお母さんを感じないかい?」

「…………。あたしは何も……。でも、そうかも知れないね。子供には見えるって言うし……」

 それからひなたは、暫くの間、言葉とも歌とも言えない不思議な声を出し続けていた。




 翌日、カナメが帰宅すると、部屋中の所々に向日葵が置かれていた。

「どうしたの!? こんな大量の向日葵。家中向日葵だらけじゃない!?」

「ふふっ、お花屋さんに届けてもらったの。あなたとあたしのお母さんの為に。枯れるまでお祈りしようと思って」

「そっか。いいね。僕も祈るよ。ひなたが大きくなったら、いつか向日葵畑に行こう。きっとひなたも向日葵が好きになるよ」

「うん! 行こう!」


 カナメは、まなみの笑顔を見ながら、一生この笑顔を守ると心に誓った。


 ふたりの、いいえ、カナメ、まなみ、ひなたの3人の祈りが届いたかのように、家中の向日葵は長い間咲き続けていたのだった。









    ―完―








【あとがき】

『向日葵~笑顔に戻るまで~』を最後までお読み頂きありがとうございました。
 ひとりの女性が、心優しい男性によって、幸せになるストーリーを短編にしてみました。


 ※この物語は完全にフィクションです。名称等、実在する場合でも、関係性は全くございません。





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『向日葵~笑顔に戻るまで~』【7】

2012.10.31(00:20) 750

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【7】―命と命―



「芝咲さ~ん、お入りください」

「ひとりで大丈夫?」

「うん……。ここで待ってて」


 カナメはすでに先の事を考えていた。お腹の子の父親は、間違いなくあいつだろう。だからって新しい命を摘むことなど出来やしない。僕はまなみを守ると自分に誓ったじゃないか? どうすればいいんだ? カナメはなかなか結論が出せずにいた。まなみを待つ時間の中で、カナメはある事を決意していた。


「ありがとうございました」お辞儀をしながら、まなみが出てきた。

「まなみ……」

「ごめんね…………。やっぱり……だった」

「なんで謝るの? まなみは悪くないじゃないか」

「どうしよう……。あたし……、どうしたらいいの……」祝福された夫婦の関係なら、喜びの涙が流れていただろう。しかし、まなみの頬に伝ったのは、昔流した辛い涙に戻っていた。

「とにかく家に帰ろ」カナメはまなみの肩をしっかりと掴んだ。

 ふたりは家に帰るまで、ほとんど会話出来ずにいた。

「まなみはどうしたいと思ってる?」

「あいつの子じゃなかったら、もちろん産みたいよ。でも、産んだとしても、この子を愛せる自信がない…………。一生あいつの影がつきまとうなんて耐えられない!」

 まなみは泣き崩れた。カナメはまなみの肩をそっと抱き寄せ、暫くしてから言った。

「あのさ、昨日からずっと考えてたんだけど……。正直、僕も悔しいよ。とてつもなく……。まなみを僕の家に連れて来た時、すぐに愛し合うべきだったって、後悔してる。そうすれば、もしかしたら僕達の子だって勘違い出来たかも知れない……。まなみはさ、もし、その子が僕の子だったら、喜んでくれたのかな?」

「……えっ! ……それは……」

 まなみはすぐに答えられなかった。カナメに対する感情が、愛情なのかまだわからずにいたからだ。カナメの好意に甘えて同居はしているが、男性として見てなかったかも知れない。

「僕は初めてまなみに会った時から気になる人だった。まなみの笑顔がすごく可愛くて、その笑顔をずっと見ていたいと思った。僕がまなみを守るんだって、勝手に意気込んでたんだ。だけど、今日自分の気持ちが更にハッキリしたよ。まなみがどんな状況になっても、僕はまなみが好きだって事!」

「……カナメ……」

「まなみはどう? 僕と一緒に居たいと思う?」

「もちろん。だけど、それは愛情なのかどうか……」

「一緒に居たいって思ってくれる気持ちだけで十分だよ」

「でも、ただ甘えてるだけかも知れないし……」

「嬉しいよ。そう思ってくれるだけで。だから……、だからさ、僕達の子供だと思う事は出来ないかな?」

「えっ! 何言ってるの?」

「だから、まなみのここにいる子は僕達の子だよ!」そう言ってお腹を触った。

「――――カナメ……。あなたって人はどこまでお人好しなの?」

「お人好しなんかじゃない! まなみが好きだからだよ! 愛してるんだ!」

「ありがとう……。でも、そこまで甘えられないよ。自分の子じゃないのに愛せるはずないじゃない!!」

「だったらどうするの? 産まないつもり? 生きようと頑張ってる命を、親の都合で葬るのか? それとも、ひとりで産み育てるって言うの? そんな事、僕は許さない!」

「でも、でも、あいつの子だよ? あのひとの面影を背負って生きて行くなんて、この子だって幸せになんかなれないよ!」

「どうして決めつけちゃうんだよ。まなみの子でしょ? あの人の事は忘れるんだ! まなみの子なら、僕は愛せる。この子は、僕と一緒に暮らし始めた日に授かった命なんだ。この子は僕達の子だ! そう、そのためには……、既成事実を作らないと」

「既成事実?」

 そう言って、カナメはまなみを抱き締めると、優しくキスをした。

「! …………」

「嫌?」

「……イヤじゃない……」

 カナメはもう一度キスをすると、今度は唇を離さないまま、まなみの身体を優しく押し倒していく。カナメの手や唇が、まなみの身体を火照らせる。

「んっ……」

 カナメの終始優しい愛撫に、まなみも気持ち良くカナメを受け入れたのだった。



「これからは、毎日まなみの中に、僕の血をたくさん注入するんだ。うんと濃くなるようにね!」

「カナメったら! ……ほんとにいいの? これで、ほんとに……」まなみの言葉は、カナメの唇に押さえつけられた。

「愛してる。ずっと愛し続けるから……」

「あたしも……。カナメをもっと好きになりたい!」

「好きにさせてあげるよ」

 カナメは再びまなみの身体を愛し始めるのだった。




 ――翌朝。

「今日お店に行けば、まなみの身体の具合を聞かれるだろうから、僕達の子が出来たと祝福してもらおうね! 今日からまなみは、僕の奥さんだ!」

「奥さん……。うん……。よろしくお願いします」

「よろしく任されます」

 ふたりは照れながら笑った。


 とは言え、不安がないわけではない。将来の事を考えれば、隠し通せるかどうかわからない。だが、ふたりは何があっても立ち向かう覚悟を決めていた。


 お店に行くと、案の定、オーナーとダイキがまなみを心配して来た。

「まなみさん? 体調はいかがですか?」

「え、ええ……、あの……」

「まさか! 何か見つかったんじゃないっすよね?」

「ダイキ。そのまさかが見つかったんだよ」

「カナメ……、ホントに言うの?」

「言うよ。ふたり共心配してくれてるんだから」

「先輩! 良くない事は聞きたくないっす。まなみさんが休んでも、オレ、ダイジョブですから」

「勝手に良くない事なんて決めるなよ」

「だって、良いものが見つかるわけないじゃん?」

「あ、あ、あー! もしかして?」オーナーが何やら感付いた。

「えっ、えっ、なんすか!?」

 カナメは深呼吸をすると、まなみを見ながら報告した。

「僕達の血を受け継ぐ命が、ここに見つかりました」

 ダイキ「へっ!!」
 オーナー「やはりでしたか」
 ふたりが同時に言葉を発した。

「いや~、やっぱりカナメは仕事が早い男だけあるなあー」

「仕事と一緒にしないでくださいよ!」

「せ、先輩が父親になるんすか? なんか複雑だなあー」

「どう言う意味だよ。ダイキは大喜びしてくれると思ったのに」

「もちろん、嬉しいっすよ! 先輩はいつもまなみさんの事、かわいい、かわいい、連発してましたからね。心配でしょうがなかったから、マジで嬉しいっすよ。でも、なんか、オレからどんどん離れて行く気がして……」

「おまえは親か!」

「ダイキくん、あなただって、彼女が出来れば、カナメから離れて行くんだから、お互い様でしょ?」

「オレ……、彼女出来る気がしないんすよね」

「なんで? ダイキくん、カッコいいじゃない? モテるでしょう~?」

「カ、カッコいいっすか!? オレ!? マジっすか? 先輩! オレ、カッコいいっすか?」

「そう言う落ち着きないところを直せばな」

「ふ~、先輩に認めて欲しかったっす……」

「ダイキくんはホントにカナメの事が好きなのね? 取られないように気をつけなきゃ」

「オレは先輩の子は産めませんからね。まなみさんには100%勝てないっす」

「おまえさ、そんな当たり前の事、真面目な顔して言うなよ」カナメがダイキの頭を突く。ダイキはムードメーカーだ。

「さあ、そろそろ仕事にとりかかりますよ。まなみさん、安定するまで無理しない程度にしてくださいね」

「ありがとうございます。お言葉に甘えますので、よろしくお願いします」



 それから半年後、ふたりは籍を入れた。


 その日の夜、ふたりがソファーでくつろいでいると、テレビから信じられない衝撃的なニュースが流れて来た。
父親が息子を刺し殺し、その父親は自殺してしまったと言う殺人事件。その息子とは隆二だった。つまり、殺して自殺したのは、まなみの元義父。殺されたのは、まなみの元夫。

「な……、ん……、て……こと……。ほんとなの……。なんでお父さんが隆二を……」

 まなみは忘れたい顔を再び目にする事になってしまった。まさか被害者と加害者になるなんて……。まなみは、心臓がドクドクしてるのがわかった。暫く身動き出来ずに呆然としていた。カナメはまなみを抱き寄せ「今は余計な事は考えなくていいから」そう言うのがやっとだった。後は、ただただ黙って強く抱き締めた。

 事件が起きてから3日後、まなみ宛に手紙が届いた。差出人は隆二の父親の名だ。実は、まなみは入籍する事を伝えていた。通帳のお礼も言えずに月日が経ってしまったから、せめて今は元気です、と伝えておきたかったからだ。もちろん、子供の事は伝えていない。

 まなみは震える手を抑えながら、ゆっくり封を開け、手紙に目を通す。

『まなみさん、結婚おめでとう。ほんとうに良かったです。幸せになってください。私達はもうこれですっかり縁が切れました。隆二があなたに会う事もないでしょう。事実は闇に葬られました。もう思い出さなくていいんですよ。これからは、カナメさんと幸せに暮らしてください。どうかお元気で。さようなら』

 まなみは涙が止まらない。義父さんは、まなみを命をかけて守ってくれた。恐らく、執念深い隆二が、再びまなみに近付く事を恐れたのだろう。

「義父さん……。ありがとうと言っていいの? ……義父さんも辛かったのよね……安らかに眠れるのかな……」

 カナメはまなみの涙を拭いながら、頭を撫でた。

「多分、あの人のお父さんは、まなみが好きだったんじゃないかな? 義父としてではなく、男として。だから愛する女性(ひと)を命をかけて守ったんだと思う。僕にはそう思えるんだ」

「まさか……。そんな……」

「僕も一応男だからね。何となくわかるんだ。僕もどっちかって言うと、陰で見守る一途な人間だからさ」

「あたしに対しては違くない? あたしはカナメのペースにまんまと乗せられている気さえするんだけど」

 まなみは少し微笑んだ。

「そう! その笑顔! まなみは笑顔がよく似合う。だからもう辛い事は忘れよう。義父さんだって、それを望んでいたからあんな事……。その気持ちを汲んであげなきゃ。って言うか……、そのためにも、僕が一生かけてまなみを守るよ」

「そうだよね。私達幸せになんなきゃだよね!」

「あれ? まなみは今幸せじゃないの?」

「やだ、そんなわけないじゃない! 幸せだよ? こんなにもみんなに愛されてるんだもん」

「みんなに?」

「あ……、カ、カナメに……です」

「はは、無理やり言わせてるね、僕は」

「無理やりじゃないよ! ホントに嬉しいの。こんな幸せな日が来るなんて思ってなかったから……。カナメに出会えて、カナメが愛してくれて……。あたし、ホントに幸せだよ」

 カナメはまなみを後ろから抱きしめると、首筋にキスをした。

「僕はまなみの笑顔が曇らないように、ずっと笑顔でいられるように、まなみを愛し続ける。だから安心して僕についてきて欲しいんだ」

「もちろんよ。カナメは強いもんね。若いのに」

「そう、若いくせに」カナメは苦笑いしながら続ける。「まなみの存在が、僕を強くしてくれるんだよ。そして産まれてくる僕達の子のためにも、僕はもっと強くなる!」

 カナメが僕達の子だと自然に出た言葉が、まなみは嬉しかった。カナメは大きくなって来たまなみのお腹を擦りながら「ねえ? いつまで出来るの?」と聞いてきた。

「えっ? あ……。う、産まれるまで出来るわよ。体勢工夫すれ……! ……んっ……」

 カナメの手が、まなみの敏感な部分へと動き始めていた。







 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【8】へ続く




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『向日葵~笑顔に戻るまで』【6】

2012.10.30(01:50) 749

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【6】―同居―



 まなみが退院し、ダイキの母親も回復したので、レストラン奏で快気祝いをする事にした。

〈〈退院おめでとうございます!!〉〉

「悪いわね〜、わたしのために、こんなご馳走作ってもらっちゃってえ〜」ダイキの母親が言う。

「何言ってんだよ。かあちゃんのためだけじゃねーんだからな!」

「わかってるわよ〜。どうせ、わたしはついででしょ?」

「まあまあ、今日はふたりがメインですから。カナメがほぼ全部作りましたから、味わって食べてやってください」とシェフが促す。

「すごーい! カナメってオムライス以外もちゃんと作れるのね」まなみが笑いながら感心している。

「ちゃんと、って……」

「ん? まなみさん? いつカナメのオムライスを食べたのですか? カナメが厨房入ってから、来店されてないですよね?」

 シェフが興味深そうに聞いて来た。カナメとまなみは顔を見合わせる。

「オーナー〜? そう言う仲って事ですよ」ダイキが代弁する。

「そうか。そう言う仲か」

「師匠! 納得しないでくださいよ」カナメが照れながら言った。


 カナメの料理はどれも好評で、完食された。




 お店での祝いがお開きになり、カナメはまなみを連れて、自分のアパートに帰って来た。



「ただいまー!」

「えっ! 誰かいるの?」

「いないよ。何で?」

「だって……。ただいまって……」

「あ、あ、習慣なんだ。……引いた?」

「うううん。ちょっと不思議な感じがしただけ」

「さ、入って」

 カナメの部屋は殺風景で、きれいに整理されていた。

「何もないから広いでしょ? まなみの物がたくさん置けるよ」と言って笑った。まなみは、壁に掛けられた向日葵の絵画に目が行く。

「この向日葵の絵、すごくいいね。あたしね、向日葵が大好きなんだ~」

「僕もだよ! この向日葵はかあさんが描いたらしいんだ……」

「えっ! すごい上手!」

「どっかで入選した絵なんだって。とうさんが言ってた」

「……言ってた?」

「うん……。僕のかあさんは、僕が1歳の時死んだ……。とうさんは、今、女の人と暮らしてるみたいよ」

「カナメ……」

「あ、僕はもう平気。大人だからね」

「おとな?」

「何だよ、一応これでも24。もうすぐ25なんだよ?」

「ふへっ、わ、か、い……。あたしと10も違うんだ……。ショック……」

「何言ってるの? まなみだって、十分若いじゃない? ってゆうか、メッチャかわいいし」カナメは自分で言って照れ笑いした。

「カナメ……。ほんとにありがとう……。あたし、お礼に何すればいいのかな?」

「お礼なんていらないよ。僕の意思でやった事だし」

「でも……、それじゃ、あたしの気が済まないよ」

「なら、気が済むようにしたら?」

「カナメ……」

「ごめん、ごめん。まなみは今まで傷ついて来たんだから、ここでゆっくり身体を治してよ。僕はまなみがそばにいてくれるだけで嬉しいんだ。とにかく今日はもう休んだほうがいいよ」

「そうね。そうさせてもらうわ」





 それから、まなみとカナメの同居生活が始まり、数週間が過ぎた。

「身体の調子はどう?」

「お陰様で、すっかり良いみたい。痛むとこもないし」

「良かった……。それで、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

「何?」

「まなみはさ、働く気はある?」

「えっ? あたしを働かせるつもりなの?」

「……乗り気じゃないなら、いいんだけど」

「冗談よ。あるわよ。バリバリ。まだ10代なんだから!」

「へっ?」

「気持ちよ。気持ち〜」

「じゃあ、力仕事も平気だね?」

「あ……、身体はリアルに30代だから無理。体力は老人並みかも……」

「ははは、大丈夫だよ。老人でも出来る仕事だから」

「ほんと? じゃあ、やる!」

「まだ、何の仕事か言ってないのに」カナメは笑った。

「正直ね、退屈してたの。身体も気持ちも落ち着いて来たし、カナメは夜遅いじゃない? 何か始めたいなって、思ってたんだ〜」

「だろう? だから、この間師匠にお願いしたんだ。まなみを奏で働かせてくれないか? って」

「えっ……。奏……?」

「嫌なの?」

「うううん。カナメと一緒に働けるなんて嬉しい!」

「ほんと!? じゃあ、明後日から一緒に行こう」



 こうして、まなみも奏で働く事になった。





 まなみが働き始めて1ヶ月。

 その日もいつものように仕事を終え、ふたりで帰ると、まなみの様子が少し変だ。

「どうかしたの?」

「なんか気分悪くて……。今日はもう寝るね……」

「大丈夫? 僕がずっとそばにいるから、安心して寝ていいからね」

「ありがとう……」




 まなみはそれから時々気分が悪くなるようになった。

「まさか――――!?」

 そう言えば……、今月来てない……遅れてる……。

 まなみは血の気が引いて来るのがわかった。気分が悪いと、早上がりさせてもらい、恐る恐る自分で検査してみる。予感は的中した。あいつの子だ……。カナメとはまだ未経験……。

 嘘でしょ!? いやだよ! そんなの!

 まなみは嘘であって欲しいと願うばかりで、どうしていいかわからなくなっていた。


 カナメは、まなみの様子がおかしい事が気がかりだった。お店にいる時も、辛そうにしていた。

「先輩? まなみさん、体調悪そうですよ。病院連れて行ったほうが良くないっすか?」

「うん……。僕もそう思ってたんだ。明日定休日だし、連れてくよ」

「オレも一緒に行っていいっすか?」 

「なんでおまえまで一緒に行くんだよ」

「オレ、あの先生にまた会いたいんすよ」

「はあ? まなみの心配じゃないの? ひとりで勝手に行ってよ。僕達にはついて来るな!」

「え~、ツレナイわ~」

「バカ! 遊びじゃないんだから!」

「ヘイヘイ、わかってますよーだ。何かあったらすぐ知らせてくださいよ」

「何かあるわけないだろ!?」



 その日の夜。

「明日さあ、病院連れて行くからね!」

「えっ……」

「ずっと顔色悪いし、見てもらったほうがいいでしょ?」

「だ、大丈夫よ。今まで仕事してなかったから、ちょっと疲れただけよ」

「ダメだ! まなみに何かあったら、また辛い思いするだろう? 僕だって悲しくなっちゃうよ」

 まなみは迷っていた。カナメに事実を伝えるべきか……。

「あ、あ、のさ……、カナメ……。落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」

「ん? 僕はいつでも落ち着いてるよ。若いのに」と言って笑った。

「そうね、若いのにね。……でも……、話したら、ここに居られなくなるかも知れない……」

「え? 何言ってるの? どうしたの? そんなに覚悟して聞かなきゃならない事?」

「ええ……。自分でもどうしていいかわからなくて……」

「なら、尚更僕の出番じゃない?」

「カナメ……。あたし、…………、出来ちゃったみたい……」

「何が? ――――――! えっ……。でも僕達まだ…………!! ま、まさか――――――!」

「その……まさかみたいなんだ……」まなみは蒼白の表情で力のない言葉を発した。カナメは無言のまま、暫くまなみを見つめていた。

「……病院へは行ったの?」

「まだ……。検査薬だけ」

「じゃあ、やっぱり病院へ行こう。ちゃんと調べてもらった方がいいよ。杉下先生のとこなら、総合病院だし、何かあったら相談出来るかも知れないし」

「う、うん……。でも、恐い……」

「僕がついてるから! まなみはひとりじゃないんだよ? その事忘れないで」


 翌日、ふたりは病院へ行った。






 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【7】へ続く




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『向日葵~笑顔に戻るまで』【5】

2012.10.30(00:33) 743

 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【5】―救い―


 二日後。カナメが閉店後の清掃をしていると、電話が鳴った。ダイキが出る。

「はい。レストラン奏です」「そうですが……。あ、あの……、かあちゃんに何か?」「良かったー」「えっ……。はい、今代わります」

「先輩、かあちゃんの病院からです」

「僕に? ……なんで?」

「カナメさんいますか? って。病院の先生みたいっす」

 カナメに代わる。

「もしもし?」

『ああ、君がカナメくんか? わたしは芝咲まなみさんの担当医師の杉下です。実は、ちょっと芝咲さんの事で、頼みたい事があるのですが、聞いて貰えますか?』

「えっ!! まなみさんの事?」

 ――暫く通話が続く。


「わかりました。僕が出来る事なら何だってやりますよ」

 電話を切ると同時に、ダイキがカナメを見る。何故か目がイキイキしているダイキ。

「先輩! 自分も全力で立ち向かう覚悟は出来てますよ!」

「おまえ、何するかわかってないだろ?」

「わかってます! 人助けっすよね? しかも先輩の大事な人の!」

「だいっ…………」

「オッシャ! まずは作戦会議っすね?」



 計画実行は、まなみの夫が出張している3日間で、すべてを終わらせなければならなかった。

 カナメもダイキもお店があるため、深夜に動くしかない。


 そして、実行した。 


 ――3日後――


 隆二が病室に入ると、まなみがいない。暫く待っていたが、なかなか戻って来ないため、隆二は院内を探し始める。

 まなみはダイキと休憩室にいた。

「ねえ、ダイキくん? 聞きたい事があるんだけど……」

「もしかして、先輩の事っすか?」

「やだ、なんでわかっちゃうかなぁ~?」

「まなみさんがオレに聞きたい事っつったら、先輩の事ぐらいじゃないっすか? オレに興味があるとも思えないし」

「興味ないなんて、そんな事は……」

ダイキは笑いながら、「気い使わなくっていいっすよ。でもオレ、先輩の事はそんな詳しくないっすよ?」

「いいの。ただ……、どんなひとなんだろうって思って。あたし、頼るひとも居なかったから、カナメにいろいろ頼んでしまったけど、彼の事、何にも知らないんだもの。少しくらい知っておきたくて……」

「オレの知ってる先輩は、メッチャ優しくて、スゲー強い男です。大切なひとの為に命をはれるっつうか。オレも先輩に助けられたひとりなんで、感謝してるんすよー。けど、女の人に関してはからっきしダメダメで。そのギャップがまたかわいいんすけどね」と言って照れ笑いした。

「か、かわいい?」

「今、キモッ! って顔した! ま、オレ、先輩の事、好きっすから」

「……。好きって……。人として、よね?」

「もちろん、男として、っすよ?」

「えっ――――――」まなみはどう捉えていいか、苦笑い。

 そこへ、隆二が険しい顔で近づく。隆二はまた男と喋ってるまなみに舌打ちをした。

 チッ。

「まなみ。こちらさんどなたかな?」

「あ、隆二……。この人ね、お母さんが入院してて、あたし、そのお母さんによく話相手してもらってるから、そのお礼を言ってたところなの」

「それはそれは。いつもまなみがお世話になりまして。さあ、部屋戻ろう」

 まなみはダイキに目配せをすると、隆二に手を引かれて行った。


 ダイキが、電話をする。『先輩。彼女が野郎と部屋に戻りました』




 ――310号室――

「まなみ。あれほど言ったじゃないか!」

「ただ話をしてただけじゃない!」

「まなみ! おまえは俺だけのものなんだ。誰にも渡さない」

 隆二がまなみを抱きしめる。

「いや! あたしはもう隆二の思いどうりにはならないわ!」

 まなみは隆二を突き放す。

「何だって?」

「隆二はあたしを暴力で繋ぎ止めてるだけよ。このままだとあたしは死んじゃうわ。あたしはまだ生きていたいの」

「どうして君が死ぬんだ? 俺が守ってあげてるじゃないか」

「は? 守ってる? 暴力が?」

「君に悪い男が付かないようにだよ」

「意味がわからない……。あたしにとっては隆二が悪い男よ!」

「まなみ……。俺には君しかいないんだ。まなみだって俺しか頼る人なんかいないだろう?」

「これから探すわ」

「ダメだ! お願いだから俺のそばにいてくれ!」

「隆二……。あたしはあなたの言葉を信じてた。きっとまた優しい隆二に戻ってくれるって……。でももう限界。何度も裏切られてきたわ。あなたは病気よ。精神の病気。あたしじゃ治してあげられないわ」

 隆二は、病気だと言われた事に逆上する。

「まなみは俺のものなんだ!」

 隆二はまなみをベッドに押し倒し、馬乗りになると、頬に平手打ちを繰り返し、両腕を押さえつけた。

「りゅう……じ……、こんなこと…まだ続ける……つもり?」

「黙れ!」隆二は再びまなみの頬を殴ってきた。まなみが足で壁をたたく。するとドアが勢いよく開いた。

「そこまでだ!!」

「――――――!?」

「警察だ。芝咲まなみさんから被害届けが出てるんでな。さっきの様子も撮らせてもらったよ」

「芝咲? ……まなみ? 何で旧姓なんだ!」

「それから、おまえさんが芝咲さんに与えた数々の危害状況証拠がこれだ」

 刑事達は証拠が入った箱を、隆二に広げて見せた。そこには、日々の暴力の詳細がびっしり書かれたノート。身体のアザの写真。医師による診断書等が数十枚入っていた。

「これだけ証拠がそろえば、起訴だってできるんだぞ」

 隆二は観念したかのように、がっくりと項垂れた。

「俺はまなみを離したくなかった……。ただそれだけなのに……」

「暴力はな、人を傷つけるだけで、何も生まれやしないんだ。おまえは1日も早く病気を治す事だな」

「俺は病気なんかじゃない!!」

「自覚してる人間は暴力には走らねーんだよ!」

 隆二は刑事に連れて行かれた。

「刑事さん? あいつは芝咲まなみの名で被害届を出したのか?」

「ああ、そうだ。おまえさんの姓を名乗りたくなかったんだろうよ。彼女の心の傷は、それだけ深いってことだな」

「じゃあ、あいつはまだ俺のもんなんだな?」

「おまえ、まだ彼女を縛り付けておくつもりか? いいか? 彼女の気持ちの中にはおまえはもう微塵も残ってないんだぞ! おまえの元に戻る事は二度とないんだ!」

「何でわかるんだ!」

「……刑事の勘だよ……」

 刑事達は知っていた。隆二はすでに偽造離婚させられていた事を。だがそれは刑事達の胸の中に収められたのだった。担当医師は、まなみから、病室と隆二の前以外では芝咲姓で呼んで欲しいと頼まれていたため、隆二にばれる事もなかった。
 

 ――310号室――

 病室には担当医師、カナメ、ダイキ、そして隆二の父親がいた。

「先生、ほんとにありがとうございました。なんてお礼を言ったらいいか……」

 まなみは深く頭を下げた。

「いやいや、わたしは提案をしただけですよ。礼を言うなら彼らに言ってください」

「もちろん、みなさんに感謝してます。ほんとにありがとう」

「まなみさん……、隆二の事、許してやってくれとは言わん。わしがばかな隆二を説得する。だから、どうか幸せになって欲しい」

「お父さん……」

 隆二の父親は一礼すると病室を出て行った。

 隆二の父親は、離婚届に隆二の筆跡で判を押し、役所に提出していた。カナメとダイキは、まなみから鍵を借り、隆二宅に不法侵入して証拠物を持ち出した。担当医師は、知り合いの刑事と内密で連絡を取り、病院で現行犯扱いにするよう依頼していた。

「まなみさん、良かったっすね! 先輩! これで安心してまなみさんと付き合えますよ」

「えっ……!」

「おい、ばか、何言ってんだよ!」

「だって、まなみさんは先輩の大事な人なんすよね? だから危険を侵してまで、まなみさんのために頑張ったんじゃないんすか? オレは、大事な先輩のために頑張りましたけどね!」

「まあ、まあ、これからの事は3人で仲良く決めてください。とにかく、まなみさんが無事だったのですから、良かったじゃないですか。今日退院していただいて大丈夫ですからね。ああ、頬の腫れが引いてからのほうがいいかな? それから……」

 そう言って、医師は紙袋をまなみに手渡す。

「彼のお父さんから預かりました。自分からだと受け取らないだろうから、わたしからまなみさんに渡して欲しいと頼まれていました」

「お父さんから?」

 その紙袋には心ばかりのお菓子と通帳と印鑑が入っていた。

「これは……」

「恐らく、息子がやらかしたお詫びのつもりでしょう。精一杯の償いなんだと察しますよ」

「お父さん……」

 まなみは涙が止まらなかった。あんないいお父さんなのに、なんであんな息子になってしまったのだろう。彼の父親が不憫に思えて仕方なかった。

「まなみ……さん?」

カナメはたまらず、まなみの肩を抱いた。

「もう……まなみでいいよ……」


〈先生、オレ達、お邪魔っすよ〉ダイキは小声で言うと、医師と共に病室を出た。


「カナメ……、ほんとにありがとう。あなたがいてくれて良かった。心からそう思う。あたしには誰も頼る人いなかったから……。ほんとに感謝してます……」

「まなみ……さ(ん)……。まなみ! これからは僕に頼っていいですからね。行くとこないんでしょ? 僕のところに来ませんか? 一緒に暮らしましょう」

「カナメ……。いいの? その……彼女……とか……」

「やだなぁー、彼女なんていませんよ。いたら一緒に暮らそうなんて言うわけないじゃないですか! それにさっきもダイキにからかわれたばっかだし」

「そ、そうだよね。でも迷惑なんじゃあ……」

「あれ~、まなみって意外と謙虚だったりするんだねー」

「意外ってなによ!」

「そうそう、その感じ。やっとまなみらしさが戻ってきたみたいだ」

 カナメは緊張が緩んできたのか、会話が自然になってきていた。

「まなみ……。あなたの笑顔がもっと見たい。僕はあなたの笑った顔が大好きなんだ」

「カナメ……。ごめん……。今は痛くて笑えない……」

「あ! あ、あ、ご、ごめん。無理しなくていいから」

 カナメはまなみの両頬を撫でながら、目を見た。

「芝咲って、旧姓だったんだね……。辛かったろう? 今は泣いていいんだよ」

「ううん、もう辛くて流す涙は残ってないわ。残ってるのは、嬉し涙だけだよ」



 カナメはまなみを抱きしめながら、まなみは僕が守ると心に誓うのだった。





 病室の廊下では医師とダイキが話していた。

「遅いっすねー。あのふたり。まさか中でしてたりして……」

「ダイキくん! しててもいいじゃないですか。好き同士なら」

「先生! 理解有り過ぎ!」

「はっはっ、冗談ですよ。あのふたりはまだしてないですね。そう言うふたりです。きっとこれから濃くなって行くでしょう」

「先生――――――。パネーす!」

「あ、ダイキくん。一応わたしは医者なんでね、忙しいのですよ。ふたりの事、頼みましたよ! あ、お母さんもお大事にね。ではまた。あー、病院だから、あまりまたはないほうがいいですね! ではよろしくねー」

「先生……。オレ、また来たいっすわ。先生に会いに」





 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【6】へ続く



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『向日葵~笑顔に戻るまで~』【4】

2012.10.29(00:50) 742

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【4】―胸騒ぎ―



 奏ではカナメの指導を受けながら、ダイキが奮闘している。ダイキは髪を短くしてからやる気が出たのか、根を上げる事もなく、昔から愛想笑いは得意分野だから、お客さんの受けも悪くはない。

「お客さんの顔が生き生きしてないか?」師匠がカナメに話しかける。

「そう言われれば、なんだか楽しそうですね。こっちとしてはありがたい事ですけど」

「ダイキは人を惹き付ける素質があるのかもなあ~」

「あいつはあそこまで髪を短くした事ないんですよ。僕も驚きました。こいつこんな男前だったのか? って」

「そうか。女性のお客さんは彼目当てってのもあるな」

「師匠……。それじゃ、今までの僕の立場は……?」

「ははは、カナメは腕で勝負しろ。わたしもだがね」師匠は苦笑い。

「ふぅ~、やっぱ女性はイケメン好きなんですね……」

「男だって、美人でかわいい人が好きだろ? 一緒、一緒。眺めるだけで気持ちが明るくなるってもんさ」

「眺めるだけ……ですか……」

 カナメはまなみの事を考えていた。眺めるだけじゃなく、話しも出来たし、自分の作った物を食べてくれたんだから、これ以上求める方がどうかしてる。名前しか知らない人なんだから。しかし、カナメはまなみに会いたかった。気になって仕方がなかった。


 ある週の定休日。カナメは昼まで寝ていたが、携帯のバイブで目が覚める。

『あ、先輩! 起きてました?』

「起きてたよ」嘘。

『実は……、かあちゃんが事故って、今病院なんすけど、明日だけ休ましてもらっていいっすか?』

「はっ!? 事故った!?」

『いや、命に別状はないんすけど、念のため検査とかするらしいんすよ。出来れば、明日まで付いててやりたいんで、いいすか?』

「もちろんいいよ。師匠には僕から話しておくから心配いらない。でもほんとに大丈夫なのか? あ、病院どこ? 今から行くから」

 カナメはダイキの母親が入院した病院へ急いだ。

 ダイキの母親は軽い怪我で済んだらしく、元気そうなので、少し話をしてから病室を出た。待合室の自動販売機で飲み物を買おうと、自販機の前に近づくと、目の前の女性の姿に思わず足が止まった。

《ま……、まなみさん!?》

 まさか……。でもあの横顔は間違いない。カナメは話しかけようとしたが、足が動かない。

《人違いかも知れない……。こんなところにいるわけないよな……》

 すると、その女性もカナメに気付いた。

 数秒間見つめ合うふたり。

「カ……カナメ?」

「まなみ……さん……だよね?」

「なんであなたがここに?」

「ああ……、後輩のおふくろさんが入院しちゃって、様子見に来たんです」

「そ、そうだったんだ……」

「まなみさんの方こそ、どうしたんですか? その格好って事は、入院してるんですよね?」

「あ、うん……。ちょっと頭打っちゃって……」


 ふたりは椅子に座って話を続けた。


「お店に全く顔出さなくなったから、気になってたんです。こんなことなら、俗の名前も教えてもらえば良かったって後悔してた……。まさか入院してるなんて思いもしなかったですよ」

「あたしだって思わなかったわよ」

「頭打ったって、大丈夫なんですか?」 

「あ、うん……、多分、頭は大丈夫……」

「頭は、って……。他は大丈夫じゃないんですか?」

 まなみは視線を下に落とすと、ゆっくり首を横に振る。

「大丈夫よ。心配しなくても。あ……、それからね、俗の名前なんてないのよ」

「えっ!」

「別の人間になりたかったの……。別の人物になって、そっちで生きてみたいって、そう思っただけなんだ」

「別の……人物……」

「なーんてね!」そう言って笑った。

 うわ! スッピンの笑顔も超かわいい!

 そう思った瞬間だった。まなみの表情がみるみる青ざめて来るのがわかった。

「あ、あたし、もう戻らなきゃ……。じゃぁね」 

 まなみは椅子から立ち上がると足早に歩き出した。

「まなみ……さん?」

 
 その時。


「まなみ! ちょっと待てよ!」カナメの後ろから男の声がした。彼はカナメの前で止まると「失礼ですが、あなたはどなたですか?」と訊ねてきた。

「えっ! ……。えっと……」

 そこへまなみが慌てて戻って来た。

「隆二! この人は何も関係ないわ。あたしが具合悪そうにしてたから、話しかけてくれただけなの! 知り合いでも何でもないから!」

「あぁ、そうでしたか。それはどうも。ご心配には及びませんので。まなみ、あんまり無理しちゃダメじゃないか。さぁ、部屋へ戻ろう。それじゃ、失礼します」

 男は軽く会釈をすると、まなみを連れて行った。まなみは振り向き様にごめんと目で言っているようだった。

 カナメは暫く茫然としていた。

 そうだよな。彼女に彼氏とか旦那とか居たって、不思議じゃないじゃないか。何をひとりでドキドキしてたんだろ。僕はなんて馬鹿なんだ。

 カナメは、今更ながら自分の浅はかさに気付いた。しかし、まなみのあの恐怖にも思える表情と、カナメを知り合いではないと否定した言動。

 彼氏か旦那なら普通はもっと笑顔にならないか? 何かおかしい。まなみはカナメに助けを求めているようにさえ思えて来た。僕に何か出来る事があるのか? だが、事情もわからないカナメにはどうする事も出来ない。



 ――310号室――

 まなみはベッドに座らされた。

「あの男、ほんとに知り合いじゃないんだよな?」

「ほんとよ……」

「まなみ……。お願いだから知らない男と気安く話すのはやめてくれよ」

「だから、あの人はあたしを心配してくれただけだってば!」

「まなみの事は俺が心配すればそれでいいんだよ」

《なにが心配よ! ただの嫉妬じゃない!》

 隆二はまなみを抱き寄せ、キスをしようとした。

「やめて!!」隆二をはねのける。

「まなみ!」隆二はまなみをベッドに押し倒し、乱暴に身体をむさぼり始めた。

「やめて! お願い! ここは病院よ。あたしが大声上げれば、すぐに看護師さんが飛んでくるわ」

「わかったよ。ならこうすりゃいい」隆二はベッドの脇に掛けてあるタオルを取り、素早くまなみの口に猿轡をした。

「――――――! んぐっ……! ん…………!」

「まなみは俺から離れられないんだよ」


《《いや、やめて!!》》


 隆二は必死に抵抗するまなみの腹に一撃すると、まなみの身体を愛撫し始めた。ぐったりしたまなみを見下ろし、動けなくなったまなみの中で、自己満足だけで果てる隆二。


 《……カナメ……》


 薄れ行く意識の中で、カナメの顔が脳裏に浮かんだのだった。


 ――翌日。まなみは医師に懇願した。

「先生……。大部屋に移してもらえませんか?」

「大部屋に? 個室の方がゆっくりできるでしょう? それに、退院するまで個室にいさせてやって欲しいと、ご主人からの強い要望もあるのですよ」

 まなみはため息をついた。

「本人が移りたいと言ってるんです! それに……、そんな重症でもないでしょう?」

「何か不安でも?」

「個室は……怖いんです。誰もいないし、またあの人に暴行されるんじゃないかと思うと、安心できなくて……」

「落ち着いて下さい。ここは病院ですよ。いくらご主人でも、ここでは出来ないでしょう?」

《先生!!!!》

 まなみは、隆二に無理矢理犯されたとは、どうしても言えなかった。何しろまだ夫婦なんだから。


 まなみの落胆振りに、医師は何かを察したのか、ひとつ提案があると言ってきた。病室で暫く話す医師とまなみ。


 ………………。


「わたしの指示に従ってもらいますが、大丈夫ですか?」

「ええ……。それであの人から離れられるんだったら、何でもやります」

「きっとうまく行きますよ」





 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【5】へ続く



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『向日葵~笑顔に戻るまで~』【3】

2012.10.28(23:55) 741

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【3】―まなみ―


 まなみは夫からDVを受けていた。いずれ逃げるつもりで、毎日記録を残し、万一に備えていた。彼の優しい部分も見て来ているまなみとしては、なんとか以前に戻って欲しいと願っていたが、戻るどころか最近になってますますエスカレートして来ていた。

 夫が出張する度に一緒に連れて来られ、自由が利かない身ではあったが、昼は夫が会社の会食で拘束されるため、その時間だけは自由に外出出来たのだった。奏へ通っていたのは、そんな理由からだった。

 ところが、ある日、暴力から逃げようとして、階段を踏み外し、意識を失ってしまう。夫にはまだ優しさが残っていたらしく、救急車を呼び、病院へ付き添った。幸い命に別状はないものの、腕や脚の打撲がひどく、頭を少し打っていた事もあり、暫く入院する事になってしまった。

 まなみはこの入院がチャンスだと確信した。退院したら、家を出よう。
 
 でもどこへ?

 まなみが今までガマンしていたのは、行く場所がないからだ。でももうあそこの家には帰りたくない! とにかく、今はゆっくり休もう……。

 まなみは眠りについた。


 診察室では、夫が医師から質問を受けていた。

「奥さんについてちょっと気になる事がありましてね」

 夫はギクリとしながらも「……なんでしょう?」と平静を保った。

「身体中に古いアザが何ヵ所もあるんですよ」

「はあ……?」

「立ち入った事を伺って申し訳ないですが、最近暴行されたとか、それに近い何かされたとか、心当たりはありませんか?」

「えっ! さ、さあ……。あいつは何も言ってなかったなぁ。妻は良く転んだり、あちこちぶつけたりして、しょっちゅうケガしてましたから……。気をつけるようには……言ってたんですが……。だからそのアザではないでしょうか?」

「そうですか……。だとしたら、かなり強く何かにぶつかったんでしょうかねえ……。ぶつけたくらいでは、あんなアザは出来ないはずですから。内出血は危険な状態になる場合がありますからね、気をつけてください」

「わ、わかりました。良く言っておきます」


 医師にはわかっていた。鳩尾の内出血は打撲によるもの。あの夫の目の動き、手の震え。この夫は間違いなくやっている。なんとか助けたい。まずは本人から事実と意思を慎重に聞き出さなければなるまい。


 別の日。

 ――310号室――

「気分はいかがですか?」担当医師が回診に来た。

「先生? わたしの身体……診ましたよね? 何か気付きましたか?」

「ええ。あなたの身体はアザだらけでした。階段から落ちたアザではないアザまで見つかりました。まるで暴行を受けたような痕跡です。暫くここで休まれた方がよろしいかと思いますよ」

「先生……。あの……。写真……、写真を撮ってもらえないでしょうか? 身体中のアザの写真を……。それから診断書も書いて欲しいんです!」

「……やはり……でしたか……」

「先生?」

「良かったら、そのアザの原因を話してくれませんか? 力になりますよ」

「先生……」

 まなみはガマンしていた思いの涙が溢れ出した。そして、ゆっくりとすべて医師に話した。

「よくガマンしてこられましたね。辛かったでしょう……。わたしに話した事で、少しは気分が楽になったのではないですか?」

 強気なまなみではあったが、涙が止まらなかった。

「彼の優しい部分はわかりました。しかしですね、それだけ暴行を繰り返されたら、あなたの身体は壊れてしまいます。暴力は愛情の裏返しではなく犯罪です。あなたはまだお若い。これからもっと幸せになっていただきたいのです」

 まなみは言葉が出ない。

「誰か信用出来る人が身近にいますか?」

「信用出来る人? ……ですか……。誰も……いません。わたし……頼る人が夫だけでしたから……」


 まなみの母親は彼女が高校生の時に出て行ったきりだ。父親は産まれた時からいなかったし、誰なのかも知らない。親戚なんか信用出来ない。


「そうですか……。それは困りましたね。入院している間にちょっと思い当たる方を探してみてください。どなたもいないようでしたら、またその時考えましょう」

「わ、わかりました。ありがとうございます」


「信用出来る人か……」


 まなみは孤独感に苛まれていた。





 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【4】へ続く



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『向日葵~笑顔に戻るまで~』【2】

2012.10.27(00:55) 740

『向日葵~笑顔に戻るまで~』【2】―1ヶ月後―


 1ヶ月後のある日。閉店後、カナメは師匠から話があると呼ばれた。

「カナメ、そろそろお前にも厨房入ってもらおうと思ってるんだ」

「えっ……、それって、あの……」

「ま、そう言う事だ!」

「ほんとですか! ありがとうございます!」

「それでな、誰かオーダーやってくれる人を雇いたいと思ってるんだが、知り合いとかいるか?」

 カナメの友達関係は暗かったが、先日バイトを首になった後輩を知っていた。顔はいいが、ガマンが足りない後輩だった。どう言うわけかカナメにだけはなついていて、何かにつけて、頼って来ていた。あいつなら言う通りに動いてくれるかも知れない。

「あの……、男でもいいですか?」

「もちろん。……むしろ大歓迎だ」

「え! ……。師匠……。まさか、そっちなんじゃ……」

「だったら、どうする?」

「いえ……。その……、彼が師匠の好みかどうかは……ちょっと……」

「あははは。心配するな。わたしは女性が大好きだ!」

 カナメは苦笑いしながら、ただ……、と続けた。

「ただ、なんだ?」

「ちょっと忍耐力不足って言うか、すぐにキレるんです。根はやさしくて、母親思いのいいやつなんですが……」

「どんなやつだろうとお客様に迷惑がかからなければ、問題ないよ。お前が仕込んでやればなんとかなるか?」

「ああ……、あんま自信はないですけど、取りあえず連れて来ますんで、面接してやってくれますか?」

「そうだな、今度の定休日に連れて来られるか?」

「わかりました」


 ――そして定休日。

 カナメの後輩であるダイキは、実は料理に無関心ではなかった。母親と二人暮らしだったため、自分で夕食を作る事が多かったからだ。

「はじめまして、大桑ダイキっていいます」

「君はこういった仕事は初めてかな?」

「ええ、まあ。でも高校ん時、たまにぱしりやってましたから、食べ物の記憶力には自信がありますよ」

 シェフとカナメは失笑する。

「なるほど。それはいい経験をしたなー」

 いやいや、よくはないだろ。

 シェフは、学校の先生が諭すかのように話始めた。

「よろしいですか? ここは小さいけれど、レストランです。うちのお店は7割くらいが女性のお客様です。君には細心の注意を払って頂かねばなりません。まずは身だしなみに態度。次に言葉使い。そして、絶対にキレてはいけません。何を言われても冷静に対応してもらわないと困ります。どうですか? がんばれますか?」

 ダイキは思わずカナメを見る。カナメは無言で頷く。

「オレ……、今まで長続きした事ないから、あんま自信ないんすけど、先輩に見放されたくないんで、がんばりますよ」

「わかりました。カナメが厨房に入るまでの一ヶ月間、厳しくしますよ。君の一日は、店内掃除から始まり、店内掃除で終了します。サボったら即、首を覚悟してください」

 ダイキは少々ビビり気味だったが、とにかくやって見るしかないと自分を奮い立たせた。

「では、まず、身体の検査関係やってもらいます。異常が無ければ、その後早速カナメの修業を受けて下さい」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
 
 シェフは去り際にダイキの肩を叩きながら言った。「最初に髪をなんとかして来てもわらないとね」

「は、はい……、わかりました」ダイキは髪をかきあげながらシブシブ返事をした。

「先輩。オレ、出来ますかね?」

「出来ますかね、じゃないよ! やるしかないでしょ! おまえさんだって、やれば出来るってとこをおふくろさんに見せてやらないと」

 ダイキは母の事を持ち出され、目付きが変わる。

「オッシャ! 先輩とかあちゃんのためにも、オレ、がんばるッス!」

「ダイキ……。自分のためにやってよ。自分自身と闘って欲しいんだ……」

「先輩……。先輩は何でいつもそんな優しい口調なんすか? ……つうか、だから好きになったんすけどね」

「……!?」

「すっ……」

「先輩って、昔からかわいいッスね~。でもホントは凄く強いってこと、ちゃんと知ってますから。だからオレ、先輩について行きます!」

「そ、そうか……。じゃぁ、ついてきなさい……」





 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【3】へ続く



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オリジナル恋愛小説『向日葵~笑顔に戻るまで』【1】

2012.10.26(23:50) 739

 オリジナル恋愛小説
 『向日葵~笑顔に戻るまで~』
 

 サクッと読める短編恋愛小説です。





 ―あらすじ―

 鳴瀬カナメは、小さなレストランで見習いシェフをしていた。そこにある女性(まなみ)が来店して来る。その日からカナメは彼女の事が忘れられなくなる。まなみが抱える秘密が、彼女から笑顔を奪っていた。やがてカナメを取り囲む人達の力で、まなみは徐々に笑顔を取り戻して行く。




【1】―レストラン奏―



 彼女にまた会いたい……。カナメの気持ちはどんどん膨らんで行った。彼女の素性も知らずに……。


 ここはシェフが経営するレストラン【奏-かなで-】

 鳴瀬カナメは見習いシェフ兼ウェイターとして働いていた。まだお昼前だが、数人のお客様がテーブル席で食事をしている。そこへ女性が一人で来店し、カウンター席の一番奥に座った。

「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら……」

「あ、ランチとかあるんだったら、それお願いします」彼女は、カナメが喋り終わる前に注文した。

「かしこまりました。ランチは日替わりになっておりまして、本日のメニューは……」

「あたし、好き嫌い無いからダイジョブだから」

 またしてもカナメが伝える前に言い放った。しかも、彼女はメニューどころか、カナメの顔さえ見ず、ノートを取り出し、すでに何かを書き始めていた。

 それから彼女は毎日11時45分頃に来店し、12時20分近くに店を出て行く。そして、1週間空けて、また1週間来店と言う不思議なお客様だった。

 ある日、シェフの身内に不幸があり、どうしても二日間店を閉めなくてはならなくなった。

「カナメ、二日だけだが、まだ食材あるから、好きなだけ厨房使ってていいぞ」

「ありがとうございます! 有難く使わせていただきます」


 そして木曜日、カナメは朝から仕込みをしていた。11時30分を過ぎた。

《あの人、今日も来るかなー。お店休みなの知ったら、どこ行くんだろ……》

 カナメは急いで店の脇に出ると、彼女が来るのを待っていた。予想どうり、彼女はやって来た。店の前で足を止め『本日から二日間、店主の都合により休業とさせて頂きます。又のご来店を心よりお待ちしております』と書かれた看板を復唱すると、困ったなぁ~、と辺りを見回す。

 カナメは店の前に出て行くと、思いきって話しかけてみた。

「あ……、あの……」

「はいっ?」

「こ、この店で働いてる者です」

「あっ……。普段着だからわからなかったわ。今日お休みなのね。どうしよ、どっかないかな? あたし、この辺だと、ここしか知らないのよね……」

「あの……、もし良かったら、僕、作りますから、食べて行きませんか?」

「えっ! ……」

「あ、も、もちろん、お代は頂きません! まだ修業中ですから」

「いいんですか? あまり時間もないので、そうして頂けるとありがたいのだけれど。じゃぁ、お願いしてもいいかしら?」

「ありがとうございます! こちらからどうぞ」

 勝手口から店内に通すと、彼女はためらいもなくカウンター席に座った。カナメは急いで着替えて準備を始める。彼女はカウンター越しから厨房を覗いていた。

「やっぱ半人前の仕事は気になりますか?」

「あ、ごめんなさい。そう言うわけでもないんだけど、なんとなく……」そう言って笑った。

 わっ! 笑顔が超かわいい。カナメは初めて彼女の笑う顔を見てキュンとなってしまった。

「きょ、今日は書き物とか、しないんですか?」

「あぁ……、なんか、お店なのに、他に人がいないって、落ち着かないもんよね。ザワザワしてた方が頭の中が働くみたい。変かな?」

「いえ、いえ、僕もどちらかって言うとそっち寄りなんでわかります」

「でしょう! だから今はちょっと止めときます。……そういえば……、あなたのこと、ちゃんと見たの今日が初めてな気がするけど、意外と若かったのね」

「意外と……ですか? かなり若いんですけど」

「あら、失礼しました。じゃあ、まだ15くらいかしら?」

 彼女はからかって来た。カナメも、まぁ遠くないですね、と返す。店の外では、休業の看板を見て残念がる声が聞こえてくる。

「お店開けちゃいましょうか? 今日はただですよー、って」

「ダ、ダメですよ、あなたにだけ特別なんですから」

「ん? なんであたしにだけ?」

「なんで……って……、なんでですかね? ……僕にもわかりません。たまたま店の外に出たら、あなたの姿をお見かけしたものですから……。ひどく困った顔をされていたので、思わずお声を掛けてしまったのかも知れません」

 待ってたくせに。

「あら、そんな顔してた?」と手で顔を覆ってみる。

 しぐさもかわいいな-。見とれるカナメ。それから数分後。

「はい、大変お待たせ致しました。カナメ特製オムライスでございます」

「カナメ? この店、かなでよね?」

「僕が作ったからですよ。僕、名前がカナメなんで」

「なるほど~、では、いただきます!!」

 彼女が一口食べる。

「ん~、あれ? 美味しいじゃん! これ! うん、うん、美味しい!」

「良かったぁー、じゃ、僕もご一緒していいですか?」

「えっ? なに? あたしは毒味役?」

 ふたりはカウンターに並んで、オムライスを完食した。

「こんなに美味しいのに半人前なの?」

「師匠のOKが出ない限りお客様には出せません」

「そっか……、なかなか厳しいのね。ご馳走さま! なんか100円くらい払わないと申し訳ないくらい」

「100円の価値ですかぁ……」

「冗談よ、美味しかったわよ。冗談抜きで。ありがとう」

 彼女はニコッと微笑んだ。

 うわ! やっぱ、メッチャかわいい!!

「あの……、明日も来てください。僕待ってますから」

「ほんと? じゃ、また来ようかな?」


 よっしゃ! 明日も作るぞ! オムライス!



 次の日の11時30分。勝手口のドアを叩く音がした。彼女にしてはちょっと早いな? 誰だろ?

「どなたですか?」

「昨日のあたしでーす。今日も食べに来ましたよー、オムライスゥー」

 カナメはドアを開けると同時に言った。

「ど、どーして今日もオムライスだと思うんですか!?」

「あれっ、違うの?」

「ち、違わないけど……」

「今のカナメの自信作なんでしょ?」

 カナメは見透かされてるようで恥ずかしかったが、その通りだから仕方ない。

「今日はいつもより早いんですね?」

「あら? そうだった? 気にしてなかったわ。いつもよりお腹空くのが早かったのかもねー」

 彼女は早く作ってと目で急かす。カナメは嬉しくなって、今日も精一杯作った。

 彼女は今日も美味しいよー、と言って食べてくれた。彼女の笑顔はたまらなくかわいい。カナメはつい見つめてしまっていた。

 彼女に「なに?」って言われて我に返る。

「あの……、あなたの名前、教えてもらえませんか? 僕は鳴瀬カナメっていいます。鳴門の鳴に瀬戸内の瀬。カナメはカタカナでカナメ。って言うか、さっきからカナメって呼び捨てされてますけどね」

「あれ、そーだった? 失礼しました。あたしね、名前ふたつあるの。俗の名前とほんとの名前。どっちがいい?」

「もちろん、ほんとの名前……えっ! 俗って……、あなたは有名人なんですか!?」

「だったら?」

「あ……、すみません……。だとしても、僕は失礼ながら、その……、存じ上げておりませんので、ほんとのお名前で十分かと……」

 彼女は、十分か~、カナメは正直だわ~、とゲラゲラ笑った。

「あたしは芝咲まなみ、芝生の芝に花が咲くの咲。まなみはひらがな。まなみでいいよ。あ、年上に呼び捨てはないわね~」

「まなみ……か」

「へ……、早速……、まぁ、いっかぁ」

 まなみは恥ずかしそうに笑うと、もう帰らなきゃ、と言って店を出て行った。

「また来てくださいね」

「……。チャンスがあれば……」

 バタン……。

 まなみは久し振りに笑った気がした。まだ自分はちゃんと笑える。以前の自分を取り戻したい。そう思いながら奏を後にした。




 それから、数週間、まなみは店に姿を現していない。カナメは気にはなるもののどうする事も出来ずにいた。
 彼女の情報が少なすぎる。こんな事なら俗の名前を聞いときゃ良かったと後悔していた。






 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【2】へ続く




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☆CATS☆

2012.10.18(22:23) 762




来月の11月11日に千穐楽を迎える横浜CATS

十数回観たけど、千穐楽が決まっちゃったら、やっぱり観ておかないとね。


10月18日(木)小雨

5列目真ん中ブロック通路側。
劇場に入った方はご存知かと思いますが、CATS劇場は前から4列目までが回転席と呼ばれ、開演と同時に、ステージと共に回転します。
つまり、回転席の4列目と、回転しない通常席の5列目とは、少し間が開いていて通路になるんです。

個人的には、回転席より5列目が一番好きなんですよね。なので、チケットを取る段階で、5列目狙いでした(*^ー^)/

もう、もう、何度も猫達にガン見されましたよ。
なでなでしたい衝動をこらえ、猫メイクを見てる振り(^-^;)。

今日もまた、舞踏会のシーンのイントロのところから、ゾワゾワーッと鳥肌が・・・・・

ここの場面になると、100%の鳥肌時間。

そして、グリザベラが歌う“おね~がい、わたしに触って~”のメモリーのサビのところで、不覚にも涙が…
年かな?(* ̄∇ ̄*;)


なんか、凄く時間が短く感じたなー。
何かが足りないような……。物足なさと言うのではなく、以前とは感動の濃さが違うような…。

なんだろうね、この感覚は。

アハハ
いいの、いいの、そんな事は

こうしてCATSの舞台を観られた事が幸せなのだから


はぁ~、これで見納めなんて、寂しいな。
またいつか会いたいよ(≧ヘ≦)




余談ですが。

すぐ後ろの席のおばさま達、どうもCATSを初めて観るようで、開演を待つ間も幕間もずーっとお喋り続けておりまして、聞きたくなくてもまる聞こえ

 >しなやかだわね~。
 >ほんとの猫みたい。
 >見つめられてさ、笑うのも変よね。じっと見てるのも恥ずかしくなーい?
 
等々……。まだまだたくさん。

 >私さ、白内障の手術したら老眼が治っちゃったのよ。まだ(手術して)2週間しか経ってないけど、老眼鏡なしで週刊誌読めちゃったの。

 ――――えっ? マジっすか?

これには驚いた。ほんとに老眼だったのかしらね?





次は『美女と野獣』です~
 
 
 
 




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2012年10月
  1. ●ホクロ除去〇(10/31)
  2. 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【8】(10/31)
  3. 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【7】(10/31)
  4. 『向日葵~笑顔に戻るまで』【6】(10/30)
  5. 『向日葵~笑顔に戻るまで』【5】(10/30)
  6. 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【4】(10/29)
  7. 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【3】(10/28)
  8. 『向日葵~笑顔に戻るまで~』【2】(10/27)
  9. オリジナル恋愛小説『向日葵~笑顔に戻るまで』【1】(10/26)
  10. ☆CATS☆(10/18)
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