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『背中』【9】

2012.11.30(23:44) 761

『背中』【9】―別れ―  




 航に出会った事で、千暎は博章と会う事は止めようと思っていた。博章から連絡がある時は、決まって博章の事を考えている時だ。以前は、会いたいと思っている時だったが、その日は関係を断ち切ろうと考えている時だった。まるで、自分の心を読まれているかのように。


 千暎は今日を最後にするつもりで、博章のされるがままに抱かれた。

「今日の千暎はおとなしくないか? 具合でも悪いのか?」

「あ、うううん、具合は悪くないよ」

「具合は? じゃあどこが悪いのかな?」

「博章さん。あたし、博章さんに会うのは……今日で終わりにしたいの……」

「ん? どうして? 好きな男でも出来たのか?」

「まだ……だけど。でも、好きになる予感がする男性(ひと)がいるの……」

「千暎の好きな男性(ひと)は僕なんじゃないの?」

「それは……。多分、好きって思い込んでただけなんだと思う。そう思う事で、満たされた気分になってたって言うか」

「思い込んでた? それでよく僕の子供を産んでもいいとまで言えたもんだね?」千暎は以前、博章には子供がいないことに振れ、博章の子を産んでもいいと言って、博章を怒らせた事があった。簡単にそんな重要発言をするもんじゃないと、激しく叱責された。

「ごめんなさい!! ホントにごめんなさい。無責任な事言ってしまったって、反省してる。博章さんがあたしの事、気に入ってくれてたみたいだったから、調子に乗ってしまって……。だから、その時は博章さんしか見えてなかったの」

「今は違うってわけか。だからか? だから最近益々きれいになったんだな?」

「まさか、そんな事ないよ!」

「その男は千暎を満足させてくれてるのか? 僕より気持ちいいのか?」

「――――――――!」

「どうなの?」


 答えられるわけがない。気持ちいい事すらしていないのだから。


「その男性(ひと)とは……、身体だけじゃないの。気持ちで繋がっていられるような男性(ひと)なのよ!」

「千暎? 確かに僕は忙しくて君とはなかなか会えない。でも僕にとって千暎は、理想の女性なんだ。千暎を抱くことが、今の僕に生きる力を与えてくれるんだよ。僕からその活力を奪わないで欲しいな~」

「そんな……。理想とか、活力とか、そんなこと言われても、それは博章さんの気持ちであって、あたしの力ではどうする事も出来ないよ」

「千暎に彼氏が出来ようが、そんな事僕は気にしない。僕が千暎を誘うのは、年に数回ぐらいなもんだよ? そのくらいなら、彼氏にバレることなんかないだろ?」

「回数の問題じゃないよ!」

「そんな深く考えなくていいんじゃないか? 千暎に彼氏が出来れば、もっときれいになった千暎を抱けるし、僕にとっては大歓迎だよ。たまには違う快感を味わうのも悪くないよ?」

「――――! 本気なの? 本気でそんな事思ってるの?」

「僕は、いつだって本気だって、言ったでしょ?」

「博章さんには守るべき奥さんがいるじゃない? もう会っちゃいけないんだよ……」

「そんな事は初めから承知の上だったじゃないか」

「そうだけど……。その時は自分の事しか考えてなかったから。それに、博章さんが好きなのはあたしの身体だけでしょう? 抱きたい時にだけ呼び出されるなんて、まるでデリ嬢だよ」

「じゃあ、払おうか? いくら欲しい?」

「――――! 冗談言わないで!」

「冗談なんかじゃないさ。それで君が僕に会いに来てくれるなら、いくらでも払うよ」

「やめてよ。そんな言い方…………」

「千暎、時々でいいんだ。ほんとに時々で。僕に活力を与えてはくれないかな?」博章は優しい眼差しで千暎を見つめる。

 そんな眼で見ないで……。心が揺れるから……。

「あたしは変わりたいの。いつまでも身体だけを求められるのはイヤ! 心ごと愛されたいと思うようになったのよ。だから、ひとりの男性(ひと)だけと真剣に恋愛と向き合ってみたいと思ってる。だから、博章さんと会う事はもう、出来ないよ……」

「千暎らしくないな~。君はそのままがいいのに」

「今までが勝手すぎたのよ。間違ってたとは思いたくないけど、変わらなきゃいけないと思ってる……」

「そうか。時々でもダメなのか?」 

「うん……」

「どうしても?」

「うん……」

「僕が千暎の身体だけじゃなく、すべてを好きだって言っても?」

「……うん」

 博章は暫く考え込むように千暎を見つめた。そして、ため息をつく。

「ふう~、どうやら千暎の決心は固いようだね。これ以上頼んでも無駄なようだな。だったら仕方ない。千暎の好きにさせてあげるよ。その前に、餞別代わりにちょっと見て欲しいものがあるんだ」

「餞別?」

 博章がTVのリモコンを操作すると、いきなり男女の絡みが映し出された。――――千暎は驚愕する。そこに映っていたのは、まぎれもなく千暎が喘ぐ姿だったのだ。

「――――――!! 何よ……これ……………………」

「良く撮れてるだろ?」映像はうまい具合に千暎だけにあてられ、男性が博章だとは全くわからない。

「君はほんとにエロいよな~。見てるだけで興奮する――――」

 千暎は怒りで震えがなかなか止まらなかった。

「いつの間にこんな事。いや……。やめて!! やめてよ!! もう止(と)めてっ!! こんなもの、一体どうするつもり?」

「千暎が僕の誘いを拒否しない限りは、どうもしないよ?」

「拒否しない限り? 拒否……したら?」

「さあ? どうするんだろうね? 僕の名を叫んでる音声を消せば、相手が僕だとはわからなくなる。そうなれば、どこにでも出せちゃうよね?」

 千暎は愕然とする。

「信じられない……。博章さんがそんな人間だったなんて。最低――――――。最低だわ。あなたがこんな卑劣な真似するような小さな男だとは思わなかった! 見損なったわよ! そんな男に抱かれて喜んでた自分が、悔しくて情けない! これをネット上にでもあげるって言うの? それとも売る気? そうやって何人もの女性を脅して来たってわけ? あなたはお金に困ってる人じゃないはずよ?」千暎は激しく怒りをぶつけた。

 博章は無言のまま、暫く千暎を見ていた。そして、ベッドの脇に置かれていたワインを飲み干すと、いきなり笑い出した。

「ふっ…………。ハハ、ハハハハッ!! やっぱり千暎は最高だよ! 君がこれ見たら、どんな反応するかと思ったら、泣き叫んでひれ伏すどころか、僕を小さな男だと罵った。更には自分が情けないとまで言う。嬉しいよ。見事に期待を裏切ってくれて」

 千暎は目をパチクリさせながら「なに……? あたしを試したわけ?」と、憤りを見せた。

「試したわけじゃない。僕の作品を見て欲しかっただけさ。僕はね、初めて千暎を抱いた時から、こんな日が来る事はわかってたよ。だから、千暎を僕の中に留めておきたかった。僕のコレクションのひとつにしたかったんだ。千暎が僕から去ったとしても、千暎を感じられるようにね。まさかこんなに早くその日が来るとは予想外だったけど」

「…………。ひどいよ、コレクションだなんて……。だからってこんなのイヤだよ。こんなものを博章さんに見られてると思うだけで、耐えられない!」

「会えないんだったら、それくらいは許してもらわないと。僕にとっての唯一の活力源なんだから。僕しか見ないんだからいいだろ?」

「いいわけないよ!」

「僕は千暎の事、ほんとに好きなんだ。だから君が困るような事はしたくない。僕はそれなりに立場がある人間だからね。千暎が僕の秘密、例えば、この部屋の事なんかも含め、誰にも口外さえしなければ、他人の目に晒される事はないさ」

「十分困るようなことしてるじゃない! もし、口外したら?」

「ふっ、君は賢い娘(こ)なんだから、そんなリスクをおかすような事はしないだろ? たとえこの先、君が退職したとしても、この映像は残ったままだからね。僕の人間関係の広さを甘くみない方がいいと思うよ」

 つまり、その言葉は、博章の一言で動く人間がいると言う事を意味していた。

「博章さんは、やっぱり大きい人なのね。素晴らしいんじゃなくて、ゲス的な意味で」

「くっ、くっ、その千暎の勝ち気なところがたまんないね~。僕の目に狂いはなかった。千暎の男を見定める力もなかなか悪くない。自信持って行ったほうがいい。きっと、今好きになりかけてる彼は、千暎にとって、大きな存在になるよ。僕の大きさとは全く違う意味でね。悪かった……。苛める事ばかり言って。ひとつだけ反論させてもらうけど、僕がこんな事したのは、今の妻だけだ。でもそれは、僕が生き延びる為の最終手段だったんだよ」

「博章さんて、もしかしたら、一匹狼で生きて来たの? ほんとは寂しがりやな人なんじゃない? いくつもの屈辱も受けて来た。違う? だからって、あたしはこれ以上あなたの事、詮索はしないけど」

「ああ、そうだな。詮索なんかしないほうが、君にとっては懸命な選択だ」

「博章さん……」

「千暎――。お願いがある。最後に思いっきり僕に甘えてくれないか? 千暎の身体の感触を、しっかり僕に植えつけて欲しいんだ」

「イヤよ! また撮るつもりなんでしょ?」

「まさか~。もうやらないって! だから安心して声出して欲しいんだ」

「ウソじゃないよね?」

「やらないって言っただろ?」

 博章はワインをグラスに注ぎ、口に含むと、千暎の口の中に流し込む。

「僕たちはこのキスから始まったんだ……」博章の顔は、あの時に戻っていた。

 千暎は彼を信じ、自分から博章を求め、今まで以上に激しい動きをするのだった。それは、博章がぐったりするまで続いた。

「千暎は僕にとって、最初で最後に愛した女性になるだろうな」

「最後だなんて、そんなことないでしょ? でも最初ではないはずよ?」

「いや……、最初なんだ。千暎が言った一匹狼で寂しがりやだって言うのは、正解と言っていい。それに、僕が好きなのは千暎の身体だけじゃないよ? それだけは信じて欲しい」

「博章さん……」

 千暎はそれ以上聞くことはなかった。
 博章は、これからはまた上司に戻るよと言って千暎を見送った。せめてタクシー代ぐらいは払わせて欲しいと言いながら…………。


 ひとりになった博章は、グラスに少量のワインを注ぐと一気に飲み干し、ソファにもたれ掛かりながら呟いた。

「これでまた、最高なコレクションが作れたな。千暎、感謝するよ。君に乾杯だ」

 博章は、部屋に設置してある数台の隠しカメラで、しっかり録画していた。しかし、今度は無修正のまま残すことに決めていた。自分ひとりの密かな楽しみのために…………。



 千暎はホテルを出ると、部屋の方に視線を向けた。千暎は、最後の営みを博章が収めないわけはないだろうと、確信めいたものを感じていた。

『博章さん、最後の千暎は良く撮れた? 相当頑張ったんだから、しっかり活力源にしてよね。あたしはあなたを信じるよ。そして、博章さんに抱かれた事は一生忘れない。あなたは本当は優しい人。きっと、ひとりでずっと闘って這い上がってきたんでしょ? 初めて愛したのが奥さんじゃなくてあたしだって言ったのは、奥さんが、今のあなたを作るために必要な手段だったからなんだね。だから別れる訳には行かないのよね? あたしがきれいになったのだとしたら、それは博章さんのお陰だよ。でも、まさかあんな趣味があったとは、正直ビビッたけど。あなたが非道な人間じゃない事はわかってる。信じてるから。博章さんの事。そして、自分自身の事も信じたい! だから、博章さん? 裏切ったら、刺しちゃうかもよ!』


 千暎は、心の中で博章に言葉を投げかけると、タクシーに乗り込み、ホテルを後にした。



 そんな千暎をじっと見つめる、ひとりの男がいたとは知るはずもなかった。





 『背中』【10】へ続く




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【Acid Black Cherry】 LIVE Bru-ray

2012.11.29(00:55) 779


ALBUMを聴いてから、凄く行きたかった【Acid Black Cherry】の武道館LIVE。
やっと映像で観る事が出来ました。

生の体感に勝るものはないが、Blu-ray Disc の高画質はやはりきれいで、ステージに近い感覚になります。

今回に限らずだけど、楽曲はもちろん、ステージセットも、“Acid Black Cherry”の世界観そのままで、凄く好き。
どうやら自分はゴシック調なのが好きらしい。

MCを含む170分のLIVE映像プラスTOURのOFFSHOTが収録されています。
ABCのエロMCをすべて収めていいのか?と思いながらも、まあ、それがABCだから、受け入れてるけどね。

バンドメンバーも個性的で、楽しいTOURなのが伝わって来ます。
今後の映像化の際にも、楽屋裏的SHOTは是非収めて欲しいです。
 
 





【Acid Black Cherry】の5周年LIVEにも行けない自分……涙。
それも映像化されるのかな~?


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☆美女と野獣☆

2012.11.26(19:26) 778









【美女と野獣】
@四季劇場[夏]
11/25(日)昼公演

来年1月に千秋楽を迎えてしまう劇団四季の『美女と野獣』これで見納めです。

先月、横浜『CATS』も見送って来たばかりなのに、自分のお気に入りミュージカルが、またひとつ遠くに行ってしまいます…


本日はお天気にも恵まれ、まずは、四季劇場の近くの“PIZZAMAN”で腹ごしらえしてから劇場へ。
(ちなみに、ミニサイズ3枚で十分な、少食親子)


日曜日なだけあって、男性やお子さまのお客様が結構いらっしゃいました。
子供達の屈託のない笑い声が、大人もつられ笑いしてしまいます(-^∀^-)

やはり、ハッピーエンドなお話は気持ちが良いですね~

お馴染みの楽曲に感動出来たし、野獣が王子に戻るシーンは、何度観てもお見事です

《王子さんの年齢が、気持ちばかり高かったかな~。……なーんて。すみません



自分で選んで取った座席は、なかなか観やすい(自己満足)。
舞台全体が見える位置で、俳優さんの表情も、動きも、衣装もすべて見えるゾーンなんです。
どうせなら、ど真ん中にすればいいのだが、何が起きても直ぐ退席出来る通路側がいいんですよ、個人的に( ̄∀ ̄;)


四季の魅力は、ダンスはもちろんなんだけど、なんと言っても、あの素晴らしい歌声
セリフの言い回しは独特なので、人によっては気になるかも知れないですけど、舞台衣装を観るだけでも楽しいのですよ。ホントに(*^∀^)

野獣の足の爪とか、尻尾とか、凄くかわいいし。野獣なのに(笑)



4月からは『リトルマーメイド』に変わりますが、こちらも観てみたいですね 
 
 





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『悪の教典』

2012.11.24(23:37) 777



下巻は残虐過ぎるのに、グイグイ引き込まれてしまっていた。
もうやめてくれ!と叫びたくなる衝動に駆られる。
きっと、二人だけは生き残ってくれるだろうと願いながら読み進んで行ったのだが、最後のひとつの命にも救われた思がした……。

登場人物が多いのに、個々の存在感がしっかりしていて、読んでいてもわかりやすい。

嗜好が合う人ならば、とても面白い小説だと思う。
だが、自分的にはやはりこれは、映像で観る勇気はない。
どっと疲れるだろう。
小説の世界だけに止めておきたい。




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『背中』【8】

2012.11.23(23:58) 760

『背中』【8】―初デートなのに―



「困らせることはしないって言ったじゃん。シュウのバカ!!」

 翌朝、千暎はぐったりした身体をやっと起き上がらせ、シャワーを浴びた。髪の毛から足の指先まで、脩平の匂いが消え去るまで、隅々まで念入りに洗い流した。鏡に写る千暎の顔は、瞼が腫れ、目が充血していた。目薬を差し、アイスマスクで15分冷やしてから化粧を始める。いつもより少しだけマスカラを濃く塗っておいた。途中で航からメールが入る。

『後10分程で駅に着く予定。大丈夫かな?』


 ――大丈夫じゃない!


 が、そうも言ってられないので『了解』とだけ返す。

 千暎は焦りながら、淡いブルー地の花柄ワンピースに、オフホワイトのロングカーディガンを羽織り、ショールを巻くと、軽く香水をかけてから、駅へと急いだ。駅のロータリーにはすでに航の車が止まっていた。

「ごめんね、ロータリーなのに待たせちゃって」

「いや、丁度今着いたんだよ。グッドタイミング過ぎるくらいだ」

「それはすごい!」

「今日の千暎ちゃん、かわいいね。あ、今日もか」

「あ、ありがと。航さんこそ、爽やかじゃん?」

 航は、千暎がこの間とは何かちょっと違うと感じていたが、それには触れず、暫く車を走らせてから「悪いんだけど、一ヵ所寄り道させてもらうね」と言って、病院に立ち寄った。

「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」と、後部座席から紙袋を取り、病院内へ入って行った。

 誰か入院でもしてるのかな? 千暎は少しでも目を休めさせようと、シートを倒し、目を閉じた。



「お待たせ!」の声にビクッと目を開ける。

「誰か入院してるの?」

「おふくろがね。頼まれ事されて、今日の午前中に持って来いって、わがまま言うもんだからさ。しかも連絡あったのは今朝だよ? だから仕方無く……。ごめんね」

「そんなん、ぜんぜんいいよ。親を優先するのは当たり前じゃない。そんな事より、お母さんの具合はどうなの?」

「ああ、心配はいらないよ。ちょっと足の骨を折っちゃっただけだから」

「折っちゃっただけって! それって大変なことじゃない!」

「まあね。でも今はすこぶる元気なんだよ。退院させちゃうと、無理しちゃうからさ。僕は未だにおふくろと暮らしてんだ。親父がいないし、一人っ子なもんだから、おふくろも僕に頼るしかないからね。あ、だからって、マザコンじゃないから安心して」と笑った。

「そうだったんだ…………。お母さんと暮らしてるからって、マザコンだなんて思わないよー。早く退院出来るといいね」

 千暎は父親がいない事が気にはなったが、家庭の事情はいろいろあるもんだと、敢えて聞かなかった。航も、余計な事まで聞いてこない千暎に、優しさを感じていた。

「千暎ちゃんは、嫌いな食べ物ってある?」

「ん~、イナゴ、ドジョウ、シラコ、カリフラワー、フキの芽……」

「わかった! もうわかったから。つまりは、大抵のものなら大丈夫って事だろ?」

「つまりは、そう言う事になります」


 航は複数の飲食店も入っている複合施設に向かった。

 食事の後は、施設の店内をゆっくり散策した。ふたりはお互い、さほど気を使う事もなく、自然な会話が続いていた。航は、千暎のいろんな表情、飾らない言葉や振る舞いを、短い時間の中で感じ取る事が出来た。

 彼女は何で特定の男性(ひと)を持とうとしないのだろうか? 見たところモテる事は間違いない。ひとりの男性では物足りないのだろうか? だからと言って、遊んでいるようには全く思えない。束縛されるのが嫌いなのは、自分も一緒だ。
 航は、今まで女性に執着する事など、全くと言っていいほどなかった。しかし、千暎といると楽しくて、何故か心の中をさらけ出したい気分になる。千暎の魅力に吸い込まれて行くのを感じ、もっと千暎の事を知りたくなった。


 そして帰りの車の中。

「今日はすごく楽しかったな〜。こんな楽しいデートをしたのは何年振りだろ」

「あたしも。なんかすごく癒やされた感じがする」

「癒やされた? 僕は癒し系じゃないと思うけど」

「あたしにとっては癒し系だよ。なんか航さんといると安心するって言うか……。まだ航さんの事、うわべだけしか知らないけど、頼れる人のような気がする。決断早いのに、強引さは感じられないし」

「あ……、勝手に決め過ぎちゃった?」

「うん。でもそう言うの嫌いじゃない。むしろ好み。あたしもイヤなら、ちゃんと言うしね」

「好……み?」

「あれ、言い方間違ってる?」

「あ、いや……。好感度は高いって解釈でいいのかな?」

「くすっ…………。かなり高いと解釈して頂いて良いかと思います」

 千暎は笑いながら言ったが、今の気持ちはその通りだった。そして次の言葉で、航に対する気持ちが、もっと高まる事になる。

「千暎ちゃんさ……。こんな事聞いても、答えてくれないかも知れないけど、今日会った時からずっと気になってた事があるんだ」

「会った時から?」

「僕の思い過ごしだと思って、1日過ごして千暎ちゃんの様子見てたけど、やっぱり気になったから……」

「どんなとこが?」

「昨日……、いや最近なのかも知れないけど、ここ1週間で何かあったんじゃない?」

「何で……そんな風に思うの?」

「今日会った瞬間に、初めて会ったあの時とは違うって感じたんだ。表情が疲れてるって言うのかな? うまく説明出来ないんだけど。今日だって、時々遠くを見るような目をしてたし。触れちゃいけない事かと思って聞かずにおこうとも思ったけど、もし、僕に話す事で気持ちが和らぐならって思ったんだ。もちろん、無理に話す必要もないし、話したからって解決するとは限らないけど……」


 ――バレていたのか。たった1度会っただけなのに。だからと言って何て説明する? 元彼に身体だけの関係を求められ、逃げられそうもない。なんて言えるわけない。


「あり……がとう……。会うのが2回目だって言うのに、あたしの異変に気づくなんてね……。航さんには誤魔化しは利かないようだわ」

「そんなつもりじゃないよ。僕は感じた事を言っただけ。やっぱり何かあったんだね? それが仕事の悩みなら相談にも乗るし、言えない事情だとしても、僕が少しでも力になれるならって思ったんだ。それに……、千暎ちゃんの事、もっと知りたいって本気で思ってる。自分でもちょっと驚いてるんだけど」

 仕事の悩みの方が、よっぽどマシだ。

「航さん……。ありがとう。でも……、あたしの事を知れば知るほど、嫌いになるかも知れない。って言うか、きっと嫌われる……。あたしは、航さんに気に入ってもらえるような女じゃないし、そんな資格もない! すごく嫌な女なんだよ…………」

「そうなの? 僕にはそんな風には写ってないけど? 千暎ちゃんが史人くんと一緒に寝てるのを見た時、ある程度の事は把握したよ。きっと千暎ちゃんは本能に逆らわずに生きて来たんだろうなって。自分の事、嫌な女って自覚してるなら、まだ変われるはずだよ?」

「――――――。航さん……」

 航は鈍感どころか、なかなか鋭いではないか。ってことは、そこまで察してて、それを承知の上で千暎を誘った事になる。千暎は恥ずかしさを覚えるのと同時に、航の心の広さに、今まで味わった事のない感情が芽生えていた。

「変われ……る? 変われるのかな。あたし……」

「それは……もちろん千暎ちゃん次第だし、僕が変わらせてやるなんて大きな事は言えないし、言うつもりもない。けど、一緒に考えて行動して、千暎ちゃんの心を軽くする事は可能なんじゃないのかな? そばにいるだけなら僕にも出来るはずだから」

 千暎は嬉しさと同時に今までの淫らな自分が恥ずかしかった。この人に嫌われたくない! 千暎の本心だった。

「あたし……、あなたに嫌われたくない」独り言を呟いていた。

「ん? 何? 今、嫌われたくないって言った?」

「あ、あのさ、もし、あたしが航さんの嫌いなタイプだったらどうする? どうしても許せないような女のタイプだったら――――」

「僕にはタイプとかないんだ。お互いが自然に惹かれあっていければ、その人がタイプなんだと思う。だけど、自分の事しか考えない人は好きにはなれない。一見自分勝手そうに見えても、実はそれが相手の事を思っての行動なら、好きになる。でも千暎ちゃん? 僕は君の事は初めから気になる存在だったんだ。少なくとも嫌いなタイプじゃない事だけは、自信を持って言えるよ?」

「航さん。あたし……怖いんだ。航さんに自分の正体を知られる事が。今まではそんな事考えた事もなかった。嫌いなら嫌われたままでいいって意気がってた……。なんでかな……。航さんには嫌われたくないって、本気で思ったんだよ」

「千暎ちゃんの正体? 君はそんなに謎な人なの? 僕は……、どんな千暎ちゃんでも嫌いにはならない気がするな〜。僕は自分の直感を信じる馬鹿なとこがあってね。その直感が強い時は、外れたことないんだ。特に女性に対しては。仕事人間の僕だから、普段の疎さが逆に女性には敏感に働くのかも知れないんだけど。千暎ちゃんが僕に嫌われたくないと思ったって事はさ、少なくとも好意を抱いてくれたって事でしょ? なら、僕も本気で向き合うよ。だから辛い事抱えてるなら、言ってくれないかな?」

 航の気持ちは嬉しかったが、何をどう伝えればいいのか整理がつかなかった。

「今は……まだ言える状態じゃないの。ただ、航さんとはこれからも繋がっていたいと思ってる。少しずつバレて行くと思うから……」

「少しずつバレて? 千暎ちゃんの発言はちょっと変わってるよね~」と笑いながら「僕だって同じ気持ちだよ。キツいと感じた時は、これからは僕がいるって事、忘れないで」


 航は千暎を駅まで送ると、「また連絡するから」と手を振り、そのまま帰って行った。


 千暎の身体には、一度も触れずに…………。





 『背中』【9】へ続く




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『背中』【7】

2012.11.23(01:50) 759

『背中』【7】―合コンの後―



 翌月曜日の朝。榎田が会社の駐車場に車を駐め、社員通用口に向かっていると、「よっ!」と、いきなり頭をどつかれた。

「痛っ! あ、新田さん! おはようございます。朝から何すんですか?」

 どついてきたのは、先輩の新田だった。

「よう、あれから千暎ちゃんとどこ行ったんだよ!」

「……。どこにも行きませんよ」

「隠すんじゃねーよ。俺は無理やり誘った責任で、聞く権利がある。おまえは答える義務があるんだ!」

「なんですか! 義務って!」

「いいから答えろ」

「強制的ってわけですか。……新田さんが、今後一切、合コンに誘わないって約束するなら、言いますよ」

「約束は出来ねーけど、当分は誘うつもりはないから安心しろ。俺さ、みっちゃんと付き合う事にしたんだ」

「みっちゃん? って、千暎ちゃんの先輩の梅田さん?」

「そ! だから、俺の合コンは一旦終了ってわけ。千暎ちゃんも暫くは誘われなくて済むはずだよ?」

「なんだ、そうだったんですか。良かったじゃないですか~」

「俺も報告したんだから、おまえも言えよ」

「わ、わかりましたよ……。あれから、千暎ちゃんちの近くの駅まで送って行って、連絡先を交換しました」

「ほう、ほう。それで?」

「それでって……、それだけですよ」

「はぁ~? それだけのはずねーだろ?」

「それだけですよ! なんか文句ありますか? 新田さんにウソは言いません!」

「ふん! どうだかな~。ま、一応信じてやるよ。でもよ、連絡先教えてくれたって事は、脈ありだよな? 行って良かったじゃないか~。なんとかものにしろよ! 進展あったら、ちゃんと報告するんだぞー。じゃあな」

 新田は榎田の肩をポン! と叩くと、先を歩いて行った。

 ――ものにするって、イヤな言い方だよな。進展か……。千暎ちゃんて、ほんとに彼氏いないのかな……?

 などと考えながら歩いていた榎田は、大事な事に気付いた。千暎に連絡をしておかねば、と。もし、千暎が梅田美智に本当の事を話したらまずいと思ったのだ。慌ててメールを打って送った。




 一方千暎は――――。


 千暎が更衣室で着替えていると、強引に腕を引っ張る女がひとり。もちろん、美智である。

「ちょっと、梅先輩! あたし、まだ着替え途中ですよ~」と言ったが、美智は千暎の腕を掴んだまま、トイレの前の狭い踊り場に連れ込む。千暎は、梅田美智の事を≪梅先輩≫と呼んでいた。

「おはよう、千暎ちゃん」

「お、おはようございます……」

「千暎ちゃん? 私に報告する事があるわよね?」

「あ! 土曜日はすみませんでした! お先に失礼してしまって」

「そんな事じゃなくて、あの後、榎田くんとどうなったか言いなさいよ!」

「えっ! どうって、特にどうにも……」

「隠しちゃだめよ。私はあなたを合コンに誘った仲間として、聞いておく権利があるんだから」

「け、権利だなんて、何言ってんですか! 勝手に合コン仲間にしないでくださいよ! あ、なら、今後絶対誘わないって、約束してください! そしたら、言いますから」

「絶対って、言われちゃうとあやしいもんだけど、実は私ね、新田さんと付き合うことにしたのよ」

「新田さん? えっ! もしかして、航さんの先輩の人?」

「そう。だから、私は暫く合コンはパスするし。榎田くんも新田さんが誘う事はないはずよ」

「そ~なんですか。良かったじゃないですかー。素敵な人が見つかって~」

「ま、まあね……。素敵かどうかはわかんないけど」と笑った。

「私の事より、千暎ちゃんよ。私はちゃんと報告したんだから、千暎ちゃんも言いなよ」

「わかりましたよー。……あれから、歩きながら話をして、あたしの顔の火照りがなかなか引けなかったから、うちの最寄り駅まで送ってもらったんです」

「うん、うん、それで?」

「……、一応……、連絡先を交換しました」

「お、おー。それで?」

「そ、それだけですけど……」

「は? それだけ? ホントに?」

「ホントですよ! 梅先輩にウソついたら、後が怖いんで!」

「ん~、なんかあやしいなあー。まあ、いいわ。でもさ~、連絡先交換したって事は、お互い好印象だったってわけよね?」

「え……えぇ……まあ、性格は良さそうな人でしたし……」

「ふふっ。千暎ちゃん誘って正解だったかも~。進展するといいね。そうなったら、ちゃんと報告してよ! 私も頑張るからさ! じゃ、またね!」美智は総務課へ走って行った。

 ――進展か~。どうなんかなあー。

 千暎もベストのボタンを掛けながら歩き始めると、大事な事に気付く。航に連絡しておかないとヤバい。ポケットから携帯を取ろうとしたが無い。そうだ。梅先輩に途中で引っ張り出されたから、バッグの中だ。慌てて更衣室に戻り、携帯を出す。

 あれ? メールが来てる……。え? 航さん?

『おはよう。取り急ぎ用件だけ伝えるね。もし、梅田さんに、土曜日の事聞かれたら、駅まで送って、連絡先交換して帰ったって事にしておいてくれないかな? 事情は後で話すからよろしく頼みます。じゃ、仕事頑張ってね。航』


 やだ、航さんも同じ目に合ってんじゃん! しかも同じ報告してるなんて……。ちょっとびっくり。


『おはよう。了解しました!! 連絡待ってるね。お仕事いってらっしゃい!』

 千暎も事情は後で話せばいいと思って、美智に聞かれた事は伝えなかった。
 仕事をしながら、もうひとつ気になる事を思い出した。あさみに聞いておくべき事があったのだ。千暎は、昼休みにあさみと話す事にした。

「この間はびっくりしたよ。史人が部屋の前にいてさ」

「ごめんね。あの時史人くん、結構パニクってたから。私は車持ってないから迎えには行けないし、何処にいるか聞いたら、千暎ちゃんとこのひとつ前の駅だったから、何の躊躇いもなく千暎ちゃんちに行けばいいよって、勝手に言っちゃったんだ……」

「ぜんぜんいいよ。でも、電話気づかなくて、待たせちゃったみたいでさ」

「聞いたよ~、梅田さんに強引に合コンに付き合わされたんだってね」

「やだ……。聞いたの?」史人はどこまで話したのだろう……。

「うん、でも、気の合いそうな人もいなかったし、途中で帰って来たんでしょ?」

「う、うん、そーなのよ」
「でも、千暎ちゃんちに泊めてもらえばって、言ったものの、夜中に急に変な事に気づいちゃって……」

「変な事?」

「だって、ふたりだけになるって事は、この間みたいになりかねないって言うか……」

「えっ…………」どうやら、本当の事は話してないっぽい。

「でも、史人くんは、思いとどまったって言ってくれた。私、史人くんを信じていいんだよね?」

 千暎は胸が痛かった。自分はなんて浅墓なんだ。親友の彼氏を寝取っておきながら、平気な顔してる。しかも、史人が何処まであさみに話したのか確認しようとしているのだ。千暎は自分を悪者にした。

「あさみ……、ごめん、実はね、あたしの方から史人に迫ったの……。あたしってさ~、お酒飲み過ぎるとやばくなるじゃん? あの日もちょっとそう言う気分になっちゃって……。でも、史人はあさみがいない時はダメだって言って、いっそ、眠くなるまで飲めって……。気がついたら朝になってたんだ……」

 千暎は自分で話しながら吐きそうだった。

「そうだったんだ……。だから史人くん、千暎ちゃんの事をかばって何も言わなかったんだね……。でもね、もし、ふたりが我慢出来なかったとしても、相手が千暎ちゃんなら、私は許せるよ。私、千暎ちゃんの事大好きだし、男の史人くんが抱きたいと思うのは仕方ない欲情だと思うんだよね……」

「あさみ…………」

 だからと言って、本当の事が言えるわけがない。史人を許そうとしているあさみが愛しかった。

「史人はあさみみたいな健気な彼女を持って、幸せ者だわね……」

 史人は、あさみにも事実を伝えてなかったのだ。千暎は安堵する気持ちと背徳行為に、心が濁っているのを感じた。



 その日の夜。航からメールが来たのは、22時近くだった。

『今、帰宅途中なんだけど、後15分くらいで家に着くから、その頃電話してもいいかな?』

 千暎は、いきなり電話をして来ない航に対して誠実さを感じた。もちろん、いいよ、と返す。


 ふたりは今朝の出来事を報告し合うと、同じ考えだった事に驚き、何か惹かれるものを感じていた。航は千暎を初めて見た時から、何故か千暎ばかりが気になっていた。千暎の様子をずっと見ていたし、店を出て行った時も、つい後を追ってしまっていたのだ。もしかしたら、自分たちは必然的に出会ったのではないか? 航は、今までに感じた事のない感情が沸き上がっていた。

『あのさ……。今度の土曜日は空いてるかな?』

『あ~、うん、多分大丈夫だよ』 

『良かったー。多分の意味が気になるけど……。じゃあ、デートしてもらっていい?』

『してもらうって! わかった! してあげます!』

 ふたりは土曜日に会う約束をして電話を切った。


 金曜日の業務が終了し、千暎は直ぐに帰宅した。コーポラスの前に、見覚えのあるバイクが止まっている。ヘルメットを見ると大きなスカルのシールが貼られていた。間違いない。脩平のバイクだ。階段を昇ると、予想通り脩平がドアの前に座り込んでいた。

「どうしたの? シュウ」

「あ、お帰り。今日は珍しく仕事が早く終わったから、千暎に会いに来た。はい! これ! 千暎の好物のカスタードのたい焼き」

「わ! あの店のたい焼きじゃん! シュウ、覚えてくれたんだ」と、たい焼きに釣られ、シュウを部屋に招き入れた。千暎は、いつもなら部屋に入ると下着を脱ぐのだが、今日は着けたまま、部屋着に着替えた。

「ちょっと冷めちまったな~」

「大丈夫。ちょっとだけオーブントースターで焼くと、カリッとするよ」

 千暎は、たい焼きを焼いてる間に、冷凍庫からおにぎりを出すと、それを解凍し温め、明太子を詰め、海苔を巻く。冷蔵庫から、昨日作ったポテトサラダとお新香もテーブルに並べた。

「今日はこれが夕飯。足りなくても、後はお菓子しかないから」

「俺も食べていいのか?」

「こんな時間に来といて、たい焼きだけじゃ足りないでしょうが!」

「悪いな。一応メールしたんだけどさ、エラーで戻ってきちゃったんだよ。アドレス変えたのか?」

「あ……。うん……。変えたのは随分前だけど……」

「教えてくんないかな?」

 千暎は黙ったまま、たい焼きを口にした。「美味い! あのオヤジさんの味だ~。懐かしいな~」千暎が誤魔化す。

「い、いただきます」シュウも、おとなしく出された食事に手をつける。

「千暎が作るもんは何でも旨い!」

「何でもとは余計だよ。でも……、シュウは何を作っても旨いって言ってくれたよね? それだけは今でも感謝してるんだ~」

「それだけかよー。……なあ、千暎。俺はどんな男になれば、おまえに認めて貰えるんだ?」

「どんな? 今のままでいいんじゃない? 今のシュウを受け入れてくれる子を探せばいいんじゃないのかな?」

「俺は千暎に認めて欲しいんだよ!」

「認めるって、どう言う事? あたしは今のシュウでも随分変わったと思うし、これからだって、どんどん男らしく変わると思うよ? 認めるとかの問題じゃなくて、気持ちがあるかどうかでしょう?」

「千暎は俺に気持ちはないのか?」

「シュウが引きずるといけないから、ハッキリ言うけど、今のあたしの心の中に、多分……、シュウはいないの。あの時に終わったのよ。だから、もう、あたしを追うのはやめた方がいい。きっとシュウの事、好きになってくれる人が現れるって。だから…………」

「何でだよ! 何で俺じゃダメなんだよ! 俺の身体は好きなんだろ? だったらもっと好きにさせてやる!」

「――――――!」

 脩平は千暎の言葉を遮ったかと思うと、千暎を押し倒した。千暎は素面で冷静なはずだったが、脩平の強引さには叶うはずもない…………。

「千暎が俺を忘れるわけないよな?」

「…………。あたしがシュウの事忘れられるわけない…………。でもそれは愛情じゃないよ? シュウは、身体だけの関係でもいいと思ってるの?」

「俺は千暎が好きだから……、誰にも渡したくないだけなんだ……」

「それじゃ何も変わってないじゃん!! シュウに会った時、逞しくなって、少しは大人になったと思って安心してたのに……。シュウはあたしに会って、また逆戻りしちゃってるじゃない! あたしはシュウのものにはならないよ? あの時の千暎はもういないんだよ!」

 脩平は暫く黙っていたが、ぼそりと呟いた。 

「だったら、俺は、千暎と身体だけの関係でいいぜ……」

 千暎と再会した事によって、すっかり雄犬に戻ってしまった脩平であった。





 『背中』【8】へ続く




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『背中』【6】

2012.11.23(01:06) 758

『背中』【6】―合コン




 ○月△日(土)


「千暎ちゃん、今回だけだから! お願い!」 

「あたし……、その日は用事が――――」

「ないわよね!!」


 総務課の梅田美智が合コンの人数が足りないからと、千暎に頼み込んで来たのは昨日の事。美智は、千暎が合コン嫌いなのを知っていたが、都合つく人間がギリギリまで見つからず、途中で帰ってもいいから、と無理やり参加させていた。

 お店には男女7人づつが顔を並べ、ホントかウソかわからない自己紹介を済ますと、割とゆったりとした時間が流れる。千暎的には地味目にして来たつもりだったが、何故か質問が千暎に集中して来てしまった。千暎は美智先輩の良いところをアピールし、自分は器量のなさを全面に押し出し、他の女性に気が向くように仕向けると、わざとお酒をハイペースで飲んで、気分が悪いと言って、店の外に出た。


 ――あ~、息苦しい。合コンの何が楽しいんだよ。先輩にメールしてこのまま帰っちゃお~。


 すると、ひとりの男性が千暎に近づいて来た。

「ちあきちゃん? だったよね? 大丈夫かい? 気分でも悪くなったの?」

「いえ、そんな事ないから、大丈夫よ」

「あの……、もしかして、君も代理?」

「へっ?」

「なんとなく、乗り気じゃなさそうだったし、自己アピールゼロだったから、そうなのかなって思っただけなんだけど、違ったらごめん……」

「いえ……。ズバリですよ……。ん? 今、君も、って言ったよね?」

「あ、僕もそうだから」

「えっ! そうなの? お気の毒」

「ハハハ、お気の毒か。まさに。まあ、今回だけって、先輩に言われてしまって。いつも迷惑かけてる身としては断りづらくてね」

「あら、あなたもなの? おもしろーい! あたしも先輩に頼み込まれちゃって、ほぼ無理やり」と言って笑った。

「そうだったの? それはまた奇遇なことだね〜」

「ね、それってネタじゃないよね?」

「ネタ? まさかー。そんなめんどくさい事しないよ」

「めんどくさいって――――。やる気の無さはあたしと一緒だわ」千暎はクスクス笑った。

「ねえ、僕の名前、覚えてる?」

「あっ、そうだよね。……、えっと……。榎田……榎田なにさんだっけ?」

「お、良く覚えてたね? 榎田航。君はたけもとちあきちゃんで良かったんだよね?」

「良く覚えてたね」千暎が復唱する。

「あの……、榎田さん、戻らなくていいの? あたしはもう帰ろうかと思ってるから」

「そうなの? でも、結構顔赤いけど、大丈夫?」

「――――! そうだった……。あたし、早く抜け出したくて、ハイペースで飲んじゃったんだ。バカだ〜。はぁ〜あ」

「もしさ、迷惑じゃなかったら、顔の赤みが引けるまで、少し歩かない?」

「えっ! あ……、う、うん……。でも先輩さんには言わなくて平気?」

「一応メールしておくよ。ま、合コンなんだし、二人で消えたら、察しがつくんじゃない? 後で問いただされるだろうけど」と、ため息混じりに笑った。

 千暎と榎田は、遠回りして駅まで歩く事にした。

「ちあきちゃんって、どんな字書くの?」

「どんなって……。割と上手だねって言われるから、上手いみたいよ」

「――――。ぷっ。……、そ、そうじゃなくて、名前の漢字の事を聞いたんだけど」

「はい。わかってます〜」千暎は笑いながら名前を説明すると、いつもながら珍しがられた。

「今日は無理やり連れて来られたって言ってたけど、彼氏とかいたりするの?」

「彼氏がいて合コンに参加する女なんて、最低だと思わない?」

「いるんだ?」

「いないって言うか……。あたしが彼氏と思ってる人はいない、かな? だから、参加してるんじゃん?」

「え……、彼氏認定の人はいないって事?」

「認定――――。上手い事言いますね~。でも、単にあたしが彼氏と言う特定人を作りたくないだけなんだけどね」

「あ~、束縛嫌いってやつ?」

「わかる?」

「なんとなくね。僕もまだ愛しいと思える女性に出会えてないせいか、ちょっとめんどくさいなって思ってしまう時があるんだよ」

「出ました! めんどくさい!」

「あ、いや、きっとそれだけのめり込める女性に巡り会えていないだけなんだと思う。無理に探そうとも思ってないしね。結婚とか出来ないタイプかも知れない」

「結婚……したい?」

「まぁ、したくないわけではないってとこかな」

「結婚って何だろうね? あたしは結婚に憧れてないから、あんましたいとは思わないけど、縁ってもんは信じてるよ」

「結婚に憧れてない? 女の子なのに変わってるね〜。まぁ、結婚も縁だし。日本人は縁を大切にするからね。だとすると、僕達の偶発的な出会いは、もしかしたら縁って事なんじゃない?」

「ふふ、そうね、考えられなくもないわよね」

 榎田は、千暎に不思議な感情を抱いていた。今までも女性に興味がなかったわけではないが、自分から進んでアピールするタイプではなかったし、追いかけられるのも苦手だった。だが、千暎は、何故か気取らずに会話出来るし、なんだか楽しい気分になっていた。

「ねぇ、あたしの顔、まだ赤い?」

「う~ん、完全には引けてない感じかな?」


 ――ウソだ。もうすっかり引けてるではないか。


「そっか、まだダメか……。もうすぐ駅着いちゃうよ……」

「なら、僕が一緒に電車乗ってあげようか? 二人なら人目も気にしなくて済むし、恥ずかしくないんじゃない?」

「えっ! でも、あたしがどこ駅で降りるか知らないでしょ?」

「知らないけど、そんな遠くから来てないでしょ? 僕は終電に間に合えばいいんだし」

 榎田はもう少し千暎と話をしてみたかった。

「間に合わなかったら?」

「間に合わせる!」

「じゃあ、間に合うかどうか試してみようか?」

 榎田は、千暎の意外な言葉に好奇心をくすぐられた。

 千暎が下車する駅までは30分。榎田は逆方向だったらしく、そこから登り電車で45分。つまり、合コンした店の最寄り駅からは、15分足らずだったわけだ。

 あっと言う間に駅に着いてしまった。

「なんかすごく早く感じたなー。ありがとう〜。この時間なら余裕だね」

「千暎ちゃんちは、ここからどれくらい? ひとりで大丈夫?」

「大丈夫じゃないって言ったら、送るつもり?」

「もちろん!」

「終電乗り遅れちゃうよ」

「そんなに遠いの!?」

「だって、ここからバスで40分だよ」

「――マジで!?」

 千暎は大笑いしながら、冗談だと謝った。

「大丈夫。大通りだし、歩いて7分の好物件です」

「おお、それは良い物件見つけましたね〜、お客さん」と言って榎田も便乗した。

 千暎はこのまま別れるのは惜しい気がしていた。だが、それをどう伝えたら言いいかわからずにいた。少しの沈黙の後、榎田の方から言ってきた。

「あのさ……、まだ終電まで少し時間あるし、もうちょっと話さない? そこでコーヒーでもどうかな?」と駅前にある珈琲店を指差す。

 千暎のアパートはすぐ近くだと言うのに、敢えて店で話そうと言う榎田に、千暎は誠実さを感じた。もしかしたら、榎田も同じ気持ちだったりするのかも知れない。

「あたしはすぐ帰れるからいいけど、榎田さんはそうは行かないじゃない?」

「少しなら大丈夫だよ。いいかな?」

「う、うん……」

 店に入ると榎田から話始めた。

「さっき縁の話が出たけどさ、偶発的な出会いついでに、僕達、友達になれないかな?」榎田は電車の中で思っていた事を、思いきって言ってみた。

「いいよ」

「はっ?」あまりにあっさり言う千暎に拍子抜けしてしまった。

「い、いいの?」

「いいよ、お友達でしょ? 榎田さん、悪い人じゃなさそうだし。お友達増えるのは良いことよね?」

「あれ? そんな簡単に信用しちゃっていいのかな?」

「榎田さんが悪い人だったら、あたし、自分を信じられなくなるわ」

「千暎ちゃんて……、自分に正直な人だね。そして、思った事をはっきり言える人」

「そうかな? 言えない事、いっぱいあるよ」と言って笑った。

「秘密は言わなくて言いけど」と榎田が返す。

「さっきも言ったけど、僕はあまり女性に対して積極的な方じゃなかったんだ。自分から誘う事とか滅多になかったし。だから、千暎ちゃんを引き止めてる今の自分に、すごく驚いてるんだ」

「ふ〜ん、それって、あたしを女として見てないからなんじゃない?」

「そんなわけないよ! 千暎ちゃんって、見かけはすごく色っぽいし……」

「あん? 見かけは?」

「うん、あっ、いや、ちゃんと女性として見てるって! だから、自分から行動起こしてる事が不思議なんだよ」

「あたしもね、軽いナンパならさっさとお断りでさよならなんだけど、何故か断れない自分がいるんだよね……。なんでかな?」

「ホントに? お互い気になる存在って事は、やっぱり良い方向の縁なのかも知れないよ? それと、厳密に言うと、ナンパとはちょっと違うんじゃない?」

「確かに。君も突っ込みますね~。でも、良いか悪いかはまだわかんないじゃない? 『今まで言ってた事はぜーんぶウソさ。おまえを落とすのは簡単だったぜ』な~んて本性現すかも知れないし」

「僕が? めんどくさがりな僕が、そんな事考えると思う? 僕だって、千暎ちゃんが気にならなかったら、あの時、声なんてかけなかったよ。それに、わざわざ送るような事もしなかっただろうし。全く自然な行動だったんだ。ウソついてるように見えるのかな~?」

「全部計算だったりして……」

「ま、仕方ないか……。始めから信用してもらうのは無理ってもんだよね……」

「ごめん、……。榎田さんの目はウソついてないと思う。話してればわかるよ……」

「千暎ちゃん……。僕はもっと君の事知りたいと思った。千暎ちゃんは?」

「て言うか、知り合ったばっかじゃん! 知らない事だらけだよー」千暎も、すでに榎田の事がなんか気になる存在になっていた。

「そろそろ行かなくちゃ……。あ、そうだ。肝心な事聞くの忘れてた。千暎ちゃんの連絡先、教えてもらっていい?」ふたりは連絡先を交換した。

 店を出ると、駅前が人だかりになっている。

「何事?」

 どうやら、人身事故の影響で、電車の運転再開のメドが立っていないらしい。

「なんてこった……。困ったな……。どうすりゃいんだ……」

 すでにバスも運行していない。タクシーには行列が出来始めていた。

「参ったな。タクシーで帰ったら、いくらかかるかわかったもんじゃないぞ。てか、この行列だといつ乗れるかも定かじゃないな~。……。この辺りにネットカフェとかある?」

「西口に出れば1件あるけど、この状態だと満席かもよ」

「とりあえず行ってみるよ。場所教えてもらえる?」

「あ〜、なら、ウチ来れば?」

「えっ――――――!」

「だってすぐそこの好物件だし。狭いけど」

「いいの? 大丈夫なの?」

「大丈夫って、何が? お友達が困ってるのに放っておけないじゃん?」千暎が躊躇いもなく、あっさり言う。

 榎田は千暎の言葉に甘える事にした。千暎の部屋は2階にあり、階段を登ったところで、千暎が足を止めた。

「――! 誰かいる……」千暎がゆっくり近づく。

「――――! 史人?」

 ドアの前に座り込んでた史人が、すくっと立ち上がった。「あ、お帰り。遅かったね」

「遅かったね、じゃないよ! 何で史人がここにいるわけ?」

「電車が動かなくてさ……。俺、今日出張だったから、車じゃないんだよ。あさみに電話したら、千暎んちが近いから泊めてもらえばいいじゃん? って言われて、ひと駅歩いて来たんだよ。千暎に電話したんだけど、出なくてさ。とりあえず直接来ちゃったんだ」

「あ! ごめん! 気づかなかった!」

「でも、来ちゃまずかったみたいだな」と榎田を見ながら言った。

「あ……いや、僕の方こそお邪魔みたいだよね……」榎田も気まずそうに千暎を見る。

「あ、あ、あ、ごめん。今開けるから、二人とも中入って」千暎が慌てて鍵を出すと、ドアを開けて二人を部屋に通した。

 千暎は誤解のないように、二人を紹介した。榎田は、史人の彼女が千暎の親友だと聞いて、安心しているようだった。

「って事で、お近づきのしるしに乾杯しよ?」

 千暎は冷蔵庫からビールとツマミを出し、テーブルの上に並べると、さっさと部屋着に着替え、テーブルにつく。

「えっと…………。奇遇な出会いに乾杯!」

 三人は缶ビールで乾杯すると、千暎と榎田の出会いの経緯を話したり、仕事の事や人間関係、政治経済の話しまで、男同士でなかなかの盛り上がりようだった。深夜2時を回りはじめた頃から、榎田はウトウト舟を漕ぎ始める。

「史人~、悪いんだけど、そこのソファの下を引っ張るとベッドになるから、出してくれない?」史人が言われる通りにすると榎田に話しかけた。「航さん! ここで横になっててください」

 榎田は少しふらつきながら「僕……、お酒は……そんな弱くないんだけど……、今日は……なんだか……ダ……メ……だ……すまん」と言いながら、ソファベッドに寝転んだ。千暎は榎田の眼鏡をそっと外し、テーブルに置く。

「航さんて、なかなかいい男なんじゃないか? 仕事出来そうだし、真面目過ぎないって言うのも好感持てるし」

「へぇ~、史人の分析は信用性ありなんかな~?」千暎が赤い顔して言う。

「話して見れば何となくはわかるさ。少なくとも悪い人じゃなさそうだよ? 遊び人でもなさげだし」

「そうみたいね~」

「試しに付き合ってみたら?」

「試しに?」

「だって千暎、まだフリーなんだろ?」

「いちおう。でも、縛られたくないんだよね~。航さんの出方に任せようかなぁ~」

「それもありだな。でもさ、こんな偶然滅多にあるもんじゃないよ? チャンスなんじゃないか?」

「チャンス? ふっ…………。そうなんかな~? 航さん……か……」

 二人ともお酒を交わしてから、下の名前で呼び合っていた。榎田と呼ぶより呼びやすいからだ。そして、史人も千暎をいつの間にか苗字ではなく、名前を呼び捨てにするようになっていた。

 千暎はもうひとつの方のソファに頭を乗せ、上を向くと、考えるようにふ~っと息を吐いた。千暎のシャツの下の素肌が透けて見える。史人は、あさみとの夜の千暎の淫らな姿が脳裏に蘇る。


 ――ヤバッ。今日はあさみがいないんだ。


 しかし、史人は徐々に興奮してきてしまっていた。一旦トイレに行き、自分を落ち着かせる。トイレから戻ると、千暎はさっきの状態のまま目を閉じていた。寝ちゃったのかな? 史人が隣に座ると、千暎がもたれかかってきた。

「おい、大丈夫か? ベッドで寝た方がいいよ。風邪ひくよ」

「……んっ、はぁ~、なんかちょっと飲み過ぎたかな~。史人は平気なの?」

「ああ、俺、ペースが遅いから、あんま酔わないんだよね」

「そっか~。でも……、まだ眠くは……ないよ」と言って、そのまま史人を見上げる。上から千暎の胸元の膨らみがはっきり見える。

「ハァ…………、千暎……」史人は堪らず千暎にキスをした。

「んっ…………。史人~、どうしよう……、身体が熱い……」

「俺も……」そのまま倒れ込み、激しく求め合う千暎と史人。

「ん……ん~」榎田が寝返りを打つ。

「まずいよ、千暎……。あっち行こう?」と言って、千暎を抱き起こす。千暎は、一定の量以上の酒が入ると、身体のセーブが利かなくなる。ふたりは長い時間快楽に耽るのだった。


 翌朝、千暎が目覚めると、隣で史人が寝息をたてて寝ている。寝室を出ると、そこに寝ていたはずの榎田がいない。

「あれ? トイレかな?」

 部屋の中を良く見ると、ソファベッドはソファに戻り、テーブルの上はきれいに片付けられていて、榎田がいる気配はなかった。帰っちゃったのかな? 何も言わず帰るかな~?


 ――ハッ! もしかして見られた? ――――――。だとしたら、航さんとは進展しないわ……。


 あっ! 千暎は思い出したように携帯を開く。メールがきていた。

『おはよう。昨日はいろいろ会話出来て、楽しい時間だった。本当にありがとう。千暎ちゃんが史人くんと気持ちよさそうに寝ていたから、起こさずに帰ります。それにしても僕達、缶ビールをあんなに飲んだの? ほとんど千暎ちゃんだろうけど、お世話になったお礼に片付けておきました(笑)。ほんと助かったよ。ありがとう! 玄関の鍵、借りてポストに入ってます。さすがに開けっ放しではまずいので。起きたらすぐ確認してね。また連絡します』


 ――航さん。あなたっていい人なのかも……。でも、気持ちよさそうに寝ていたから、ってのが気になるな~。見られてなくても、疑われたかも知れない……。


 千暎が軽い朝食を作っていると、史人が起きてきた。

「あれ? 航さんは?」

「帰っちゃったらしい」

「へっ? もう帰ったの? 随分忙しい人なんだな」

「彼なりの気遣いなのかも。あたし達に対するね……」

「そうなのか? ――――まさか……昨日の俺達の事知って、気を悪くしたとか?」

「どうかな? メールの内容だと気づいてる様子はなかったけど、何かを察してしまったかもね……」

「鈍感な人ならいいんだけど。千暎はエロ過ぎるよ……。あんな姿見ちゃうと、男はセーブ出来なくなる」

「――――。ごめん! お、お酒飲むとヤバいんだよ。でも、お酒好きだし、あんなになっちゃうから、外ではあんま飲めないしさ。家だとつい飲み過ぎちゃうんだよね……」

「悪いクセだな。男を部屋に呼ぶ時は、酒飲まない方がいいんじゃないか?」

「危険な人は呼ばないから安心してよ」

「いや、そう言う問題じゃないと思うけど……。じゃあ聞くけどさ、酒が抜けた今でも俺と出来るか?」

「えっ! ……。それは……史人次第なんじゃない?」

「試してみる?」


 と、その時。

 ブー! ブー! ブ―! 史人の携帯が鳴った。

「あさみからだ」


 思わず顔を見合せ、苦笑いする千暎と史人だった。





 『背中』【7】へ続く



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『背中』【5】

2012.11.23(00:26) 757

『背中』【5】―元彼



 ――土曜日――

 千暎は昼頃起き出して、録画した番組を一通り見終わってから、夕方からひとりショッピングに出掛けた。あるショップで品定めしていると、後ろから声を掛けられた。

「君、ひとりなの?」

 ――ナンパかよ。

 千暎が気にしてない振りをしてると、「あれ? 俺の声忘れちゃったのか? 千暎〜」明らかに自分を呼ぶ声だ。千暎は思わず立ち止まり、今の声を頭の中でリピートする。

 嫌な予感……。千暎は振り向かずに、急ぎ足で店を出た。「待てよ!」予想通り捕まる。

「何も逃げる事ないだろ〜。千暎〜」千暎はひと息付くと「会いたくない人に声かけられたから逃げたのよ!」

「俺も随分と嫌われたもんだな〜」

 目の前の男を見上げた瞬間。千暎は驚きを隠せなかった。そこには痩せ細った気弱な男ではなく、色黒で一回り大きくなったかのような、逞しい元彼がいたのだ。彼の名は脩平。

「うそ……。脩平? ほんとにシュウなの?」

「違うなら誰だよー」

「声は確かにシュウだけど……。まるで別人……。声かけられなかったらわかんなかったかも……」

「今、ひとりか?」

「ひとりが好きだからね!」

「千暎は変わらないな。つうか、スッゲー美人になった!」

「へぇ〜。お世辞も言えるようになったんだー」

「からかうなよ。……なあ、こんな偶然あると思うか? どっかで話せないか? 予定ないなら、飯でもどうだ?」

 千暎は迷った。散々人を縛り付けたストーカー野郎の変貌ぶりに、かなり動揺していた。だが、あの時と違って、目が落ち着いているし、風貌が大人だ。ギラギラとしたイヤらしさは全くなくなっていた。そこまで彼を大人にさせた理由(わけ)は何なのか、ちょっと興味が湧いた。

「シュウの方こそ平気なの?」

「平気じゃなきゃ誘わないさ」

 ――ごもっとも。

「じゃあ、シュウの奢りね!」

 脩平は千暎のOKのサインに意外な顔を見せながら、バイクが停めてあるパーキングまで戻ると、千暎を後ろに乗せ、走り出した。4年振りの脩平の背中は厚くなり、すごく筋肉質な身体になっていた。しっかり掴まってないと、手が外れそうだった。着いた店は居酒屋チェーン店。席に座り向き合うふたり。適当に注文すると、脩平から話始めた。

「しかし驚いたな〜。信号待ちしてたら、千暎っぽい女が前を通り過ぎて行ったからさ、まさかと思いながら、急いでパーキングにバイク停めたんだ。ちょっと後を付けてみたら、やっぱり千暎でさ〜。いや〜マジでビックリしたよー」

「付けたんだ?」

「いや、だってさ、人違いって事もあんだろ? あれから全く会ってねーし」

「まさかまたシュウに再会するなんて、思ってもみなかったわよ」

「俺も! しかも連絡取ったわけでもなく、街でなんてさ。なんか俺達キテるんじゃね?」

「ふんっ、キテる? 何がよ。……。で、シュウは彼女は? あ、もしかして結婚でもした?」

「気になる?」

「……。別に?」

「千暎は?」

「気になる?」千暎も聞き返す。

「チッ! 千暎はいるだろう? こんないい女、周りが放っとくわけねーよな?」

「さあ〜? かなり放っとかれてますけど? あたしにその気がないってのもあるけど」

「まさかぁ〜。千暎が男無しでいられるわけねーじゃん!」

「――! やめてよ! あんたと付き合ってた頃とは違うんだから!」

「もっと感じやすくなったとか?」

「――――!」

 脩平と付き合ってた頃は、毎日のように抱かれていた。脩平の身体は痩せていたが、精力旺盛で、千暎の身体は若い脩平によって開発されたようなものだ。それ故、彼の嫉妬深さに嫌気が差しながらも、結局は彼の腕に抱かれてしまっていた。今、目の前にいるこの男がその彼だなんて、信じられない。

「って事はよぉ、結婚もしてねーし、彼氏もいないって事か?」

「さあね。答える義務なし! ねぇ? それより、シュウは今何やってんの? その身体はどうしちゃったわけ?」

「驚いたか? そりゃそうだよな。あんな痩せ坊がこんなんなったら、誰だって驚くよな~。一番ビックリしてんのは俺だけど」と言って笑った。


 メッチャ爽やかじゃん! おまえ誰だよ! 


「俺さ、力仕事やってんだ。工事現場で。兄貴の会社に入れてもらってさ。最初はキツかったけど、兄貴の前で、弱音吐けねーから、自分で筋トレしながら現場行ってたら、いつの間にかこんな身体になってたんだ。俺ってやれば出来る男だったんだなー」と言ってニヤけた。

「出来る男って! 確かに見違えたわ。そっか、お兄さんと一緒なんだ。あんたのお兄さん怖そうだもんね?」

「千暎とだって、兄貴のせいで別れさせられたようなもんだからな〜」

「せいじゃなくて、お陰でしょ? シュウはしつこかったからね。お兄さんがまともな人じゃなかったら、今頃あたしはノイローゼになってたわ!」

「……ごめん。あん時の俺は千暎を自分だけのものにしたくて、嫉妬に狂った雄犬だった……」

「今の脩平は、あたしの知ってるシュウじゃない……。なんか……ちょっと大人になってる……」

「へへっ。だろ? 千暎にそう言って貰えて、マジで嬉しいよ! 今の俺なら千暎を束縛したりしないぜ。こうやって会えたのも、偶然じゃねーんじゃねーの?」

「ふっ、引き寄せられたとでも言いたいわけ?」

 脩平は何か考えているかのように、ツマミと烏龍茶を交互に口に運ぶ。千暎もチューハイの追加を頼み、程よく赤くなり始めていた。

 ひと息ついた脩平。

「実はさ、俺、千暎と別れた後、自棄を起こして、ナンパしまくったんだ。けど全くダメダメでさ。ある女に、あなた痩せ過ぎてるから抱かれる気になんないって言われてさ。ダメなのは身体かよ!って思ってさ。俺のテクも知らねーくせに、見かけで判断されたのが頭に来たから、鍛えてやろうと思ったんだ。そん時、俺を逆ナンして来た女がいて、ついノッちまったんだ……」

 脩平の話が途切れる。

「それで? その女がどうかしたの?」

「ヤバイ組の女だったんだ……。嵌められたってわけよ」

「まさか……。脅されたの?」

「ああ……。お前はまだ若僧だろうから片手で許してやる。その代わり、身体を貸せって言われて……。ボコボコに殴られて、救急車騒ぎ。入院する羽目になっちまったよ」

「入院? ひどくやられたもんだね。警察沙汰にならなかったの?」

「そんなことしたら、何されるかわかったもんじゃない! けど病院から通報したらしくて、事情聴衆されたよ。いちゃもんつけられて、喧嘩になったら、俺が弱過ぎただけだって言い張ったら、厳重注意で終了。幸い打撲だけだったからな。俺もそれ以上そいつらに関わるのはごめんだったし」

「そんな事があったんだ…………。でもお金はどうしたの? 貯金なんてなかったでしょ? 借金したの?」

「それも兄貴が全部面倒見てくれてさ……。だから兄貴には頭上がんねーわけよ」

「また兄貴? まぁ、高利貸しよりましだわ。頼りになるね、シュウのお兄さんは」

「そーなんだよ。散々兄貴に説教されたよ。俺も怖くてナンパ出来なくなったしな」

「あら? あたしをナンパしてたじゃん?」

「だからさ〜、ちゃんと確認してから声掛けただろ? 久しぶりに女に声掛けたから結構ドキドキしてたんだぜ」

「ウソばっかり。こ慣れたもんでしょ?」脩平は苦笑いしながら、赤くなった千暎を見つめる。

「千暎〜、スッゲー顔赤いぞ。大丈夫か?」

「あ、あたし、そう言う体質なんだよ。大して酔ってないから平気よ」

「そうなのか? そういや、俺と付き合ってた頃は、酒の代わりがベッドインだったからな。そんな体質だったなんて気付きもしなかったよ」

「――――――」

「なんだよ、忘れるわけないよな?」

 千暎は、一瞬でその時が甦っていた。思い出したくない過去なのに、お酒の影響で身体が反応し始めていたのだ。脩平も益々女性らしく変わった千暎を目の前にして、すでに発情していた。精神的に少しは成長したとは言え、欲情を抑えるのは無理な話だ。だが、脩平は耐えていた。

「あたし、ソロソロ帰んなきゃ」

「何で? まだいいじゃん」

「電車の時間とかあるし。あんまり遅くなると、電車ん中に酒臭い人が増えんのよ。終電は特にね」

「俺が送るから心配すんなよ」

「あたしね、入社した時に引っ越したんだ……」

「大丈夫さ。どんなに遠くだって、送るから」

「そこまで遠くないよ! でもいいよ。酔いが回らないうちに電車で帰るから……」

「何みずくさい事言ってんだ? あ! 俺に千暎んち知られたくないって事か?」

「…………」

「だよな~。けど、俺はあん時とは違うぜ。千暎を困らせるようなことはしないさ。信用出来ないか? つーかさ、その前に、その赤い顔して電車乗る勇気あんのかよ!」

「――――! そ、そうだった。もし、困る事になったら、兄貴にチクるから!」

「ご遠慮なくどうぞ」脩平が肩を窄めた。

 バイクを走らせてる途中で雨が降り出した。急ぐ脩平。千暎が住むコーポラスに着いた時は、ふたりとも結構濡れてしまっていた。

「風邪引くから早く風呂入れよ。気が向いたら連絡くれてもいいんだぜ。じゃあな」

 帰ろうとする脩平を千暎が止めた。

「シュウの方こそ風邪引くじゃない。雨も段々強くなって来てるし、これからバイク走らせるのは危険だよ。様子見た方がいいって!」

 脩平は迷ったが、バイクを降り、エンジンを切った。千暎は脩平を部屋に通すと、タオルを渡す。

「着替えちゃうから、ちょっと待ってて」

 メットから出ていた千暎の前髪と毛先が雨に濡れ、しっとりとしている。上着を脱ぐと、その髪が揺れ、千暎のふわっとした香りが、脩平の理性を壊した。

「千暎!」後ろから襲う脩平。

「な、何!?」

「無理だ! 俺、がまん出来ねえ! まだ千暎の事、好きなんだ!」

 脩平は千暎を壁に押し付け、両手を押さえ込むと、強引にキスをした。

「んっ! シュウ……。待って……」

 脩平は飢えた野獣のように、息をあらげながら、千暎の身体中を弄る。千暎もまた、脩平の愛撫で身体が火照り始めていた。

「……ダ、ダメ…………」


 脩平の指の動きが、千暎の身体に電流を走らせ、4年前の快感に墜ちていく――――――――。




「千暎……。俺達何も変わっちゃいないぜ。変わったのは、千暎の感度がスゲー上がってるって事だ。俺、ヤッパ、千暎から離れらんねーよ。俺は千暎を目にした時から、身体中が熱くなってたんだ。バイク跳ばしながらだって、このまま千暎を抱きてぇーって思ってたよ。けど、それじゃ男じゃねー気がしてさ。だから、ちゃんと送って帰るつもりでいたのによ〜。千暎が引き止めたりすっから、俺だって止まんねーよ」

「あたしのせいにしないでよ」

 千暎も脩平も、会った時から何かを感じていた。お互い嫌いで別れたわけではない。脩平の異常とも思える束縛さえなければ、ふたりは続いていたかも知れないのだ。しかし、その期間があったからこそ、脩平は変わる事が出来たのだろう。結局脩平は、千暎のベッドで朝を迎えた。



 ――翌朝。

 朝食を作る千暎の後ろ姿を見ながら、一時の幸せを感じる脩平。ゆっくりベッドから這い出すと、千暎を後ろから抱きしめる。

「んっ……。ダメだよ!」脩平は朝から元気だった。一時の快楽を終えると、千暎が朝食を並べる。

「うまそ! まさか千暎の作った朝飯をまた拝めるとは思わなかったぜ! いただきます!」脩平が嬉しそうに食べながら言ってきた。「なぁ、俺達、やり直さないか? 俺、車買って、もっと働くからさ。兄貴の借金もちょうど返し終わったとこなんだ」

 やり直す? 確かに以前の脩平とは違う。だからってやり直すのはどうなの? それは脩平の女になれと言う事か? 彼氏として付き合うと言う事は、その彼を好きになり、好きだから少しでも一緒に居たいと思うからよね? 千暎は脩平を好きなのか? そもそも好きな気持ちがあって付き合っていたのか?

 千暎は今頃になって肝心な事に気付く。

 あの頃は、脩平が好きだ好きだと一方的に言って来てたから、自分の気持ちなんて考えた事もなかった。脩平に抱かれるだけで満足していたのだ。

「あたしは……、やり直すとか今は何も考えられない」

「千暎……。おまえ、彼氏いないって言ってたけど、遊んでる男がいるのか?」

「いたらどうするの? 前みたいに殴り込むつもり?」

「いたところで、今はどうする事も出来ないだろう? 俺は千暎の彼氏じゃないだからな」

「そう言うのがイヤなの! だから彼氏とか作りたくないんだよ! ホントに好きな人が出来て、その人だけを見る事が出来るまで、わたしは自由でいたい。束縛されるのはその時でいいの!」

「自由か……。なあ、なあ、いるんだろ? 相手は何人いるんだ?」

「もうー、バカな事言わないでよ! そんないるわけないじゃん! それに、何人いようが脩平には関係ないでしょ?」

「千暎~、俺の身体が好きなんだろう? だったら、俺だけにしとけよ。いつだって天国に連れてってやるぜ? な、そうしろよ」

「シュウ……。変わったのは見かけだけ? あたしは束縛されたくないの! シュウがもっと大人になって、人間的にもおっきくなんなきゃ、あたしじゃなくても、女は逃げてくよ」

 脩平はハッとしたかのように、残ってたスープを飲み干す。

「そうだった……。俺、千暎の前だとついわがままになっちまう……。けどよ、どうすりゃいんだかわかんねーよ。とりあえずさ、千暎に会いに来る事はいいだろう?」

「……。でも、あたしはシュウの女じゃないんだから、焼きもち妬かれたりされると困るんだけど。いろいろ探らないって約束して」

「わかった。じゃあ、他の男に勝ちゃあいいって事だな?」

「――――――。勝負の問題じゃないんだけど」



 脩平は千暎の部屋から現場へ出掛けて行った。まるで奥さんに見送られる旦那になった気分だ、と言いながら―――――。





 『背中』【6】へ続く



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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

2012.11.20(20:00) 773

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

11/17(土)
初日に観てきました。

開場に間に合うように出かけたのはいいが、駐車場がまさかの満車
これはかなりの誤算。
だって、ここの映画館、通常はかなり空いているんですもの。

急いで発券を済ませ、シネマ席に座る。

中階段から後ろの座席が、ほぼ埋め尽くされている言う光景を初めて見た。(気がする)
戦国BASARAの時もそこそこ入っていたが、やはり、初日だからだろうか。

舞台挨拶もない、地方の映画館だから、一番前まで埋まる事は、まず無いだろうが、初日の最初の上映時間は、前列まで埋まっていたらしいです。

男性のお客さんが多かったように思いますね。両隣、前後も男性さんでしたし。

内容は言えませんが、と言うか、自分のような知識の浅い人間が語る資格も無いですが、時間が短く感じました。
そして、ここ数年の日本アニメーションの技術の高さは半端無く素晴らしいです
ホントに
世界に誇れる日本の技術のひとつですね!!
この迫力は是非とも映画館で体感して欲しいものです。

主題歌である、宇多田ヒカルさんの『桜流し』が、切なくも美しく、ヱヴァファンの宇多田さんならではの旋律で、スクリーンが暗くなるまでヱヴァでした。あくまでも個人的感想ですが。


次回最終章(?) 、恐らくは娘と観る事になるでしょう~



そして、12月に公開される『レ・ミゼラブル』
これは、絶対観たい!!
てか、観る


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『悪の教典』上

2012.11.18(12:44) 772




映画公開前に読み終える予定だったが、全然間に合わなかった。
やっと上巻が読み終わったところ。
正直、これは小説の中だけに止めたい気分。

人間の冷酷さ。残酷さ。表裏に潜む悪。
どこまで死人が出るのか、下巻を読むのが怖い……ような。




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2012年11月
  1. 『背中』【9】(11/30)
  2. 【Acid Black Cherry】 LIVE Bru-ray(11/29)
  3. ☆美女と野獣☆(11/26)
  4. 『悪の教典』(11/24)
  5. 『背中』【8】(11/23)
  6. 『背中』【7】(11/23)
  7. 『背中』【6】(11/23)
  8. 『背中』【5】(11/23)
  9. ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(11/20)
  10. 『悪の教典』上(11/18)
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